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※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

反戦の視点・その83

2009年06月20日 | 練馬の里から
核実験を批判する資格について
                                井上澄夫

 私は「原子力の平和利用」を含む核開発・核実験・核保有・核使用のすべてに反対するという立場で、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が5月25日に行なった地下核実験に抗議する。ただし、後述する私自身がなすべきことの履行を条件として、である。
 いわゆるNPT(核不拡散条約)は加盟国の核保有の権利について、まったく不平等な条約である。他国に先駆けて核開発・核実験を行ない、核兵器を保有した五つの国(「核クラブ」と呼ばれる米・英・仏・ロ・中、つまり国連安保理常任理事国)の核保有は特権的に許されるが、その他の国ぐにの保有は禁止されている。しかも「誠実に核軍縮交渉を行なう義務」を負っている「核クラブ」5カ国は「自国の安全保障」を口実に容易に核を手放さない。
 となれば、核を保有して「自国の安全保障」を図るために、NPTに加入しない国(イスラエル・インド・パキスタン)やNPTから脱退する国(北朝鮮)が出てくるのは自然のなりゆきではないか。NPTにはとどまるが、公然と核開発を進めるイランのような国もある。世界の多極化のはざまで、自存自衛のために核保有の誘惑に駆られる国がもっと増える可能性さえある。
 米英仏ロ中とインド、パキスタン、イスラエルの計8カ国が保有する核弾頭は2万3千3百発以上、うち使用可能な弾頭は約8千4百発だが(出典:スウェーデンのストックホルム国際平和研究所〔SIPRI〕の本年版年鑑)、核が拡散する世界で、核廃絶の大義を主張できるのは、核兵器を保有しないか、他国の「核の傘」に依存しない国だ。日本は今は核武装していない。しかし韓国とともに米国の「核の傘」で守ってもらうことを、冷戦期も、冷戦後も、軍事的安全保障の根幹としてきた。自国は米国の核に依存していながら、近隣諸国の核武装は許せないというのは、いかにも身勝手な理屈である。
 麻生首相は6月7日、「北朝鮮に対しても、少なくとも我々は戦うべきときは戦わなければならない」と“堂々たる”違憲演説を行なったが、北朝鮮政府が米国と日本を名指しで非難するのは、日本の植民地支配が朝鮮半島の分断をもたらし、朝鮮戦争以来、米日が北朝鮮を敵視して韓国とともに軍事的な包囲網(米日韓軍事同盟)を維持し続けたからである。
 歴史に「if」(もしも…であったら)はないというが、仮に戦後日本が日本国憲法をそのまま実現して他国に少しも脅威を与えない平和な国であったなら、隣国の「ミサイル」の発射や地下核実験でいきり立って「戦争も辞さぬ」というような発言が首相の口から飛び出すことはなかったにちがいない。「唯一の被爆国」神話はともあれ、この国はヒロシマ・ナガサキを経験した国として、北朝鮮に核開発をやめるよう説得できる道義性を保ち得たはずである。

 東北アジアの軍事的緊張をなくす方法はある。周辺諸国の軍備状況に一切かまわず、日本が一方的に武装を解除し、日米安保条約を破棄して米軍を撤退させることである。自衛隊を非武装の実現に向けてどんどん縮小し、沖縄からも「本土」からも米軍に出て行ってもらう。そうすれば、日本の前科を忘れない近隣諸国は、世界に向けて誓約した日本国憲法の前文と9条が空手形ではないことを確信して安心し、善隣友好を発展させるにちがいない。日朝平壌宣言に基づく日朝間の国交正常化がそういう雪解けの一里塚になることは言うまでもない。私はそのための自分自身の努力を前提として、北朝鮮の地下核実験に抗議する。              (沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)


【付記】本稿は『人民新聞』6月15日号への寄稿である。筆者、井上澄夫は下記の運動にかかわっているが、今後の「反戦の視点」では一々、肩書きは記さない。
     ◆ 沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック 運営委員
     ◆ 北限のジュゴンを見守る会 運営委員
     ◆ 死刑廃止を求める市民の声 共同代表の一人