練金術勝手連

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※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

これが民意だ ★ 翼賛メディアからでもわかる!

2007年05月16日 | 今週の注目記事
 『金曜日』5/11号に、7000人が集った日比谷公会堂の集会に関する《これが民意だ!盛り上がった5.3「護憲集会」》という報告が載っている。全国で行われた護憲集会を含め市民の動きの無視を決め込む翼賛メディアの中で「これが民意だ」と自信をもって言い切るところが、金曜日の金曜日たる所以?
 民意といえば、“世論はメディアが作る”といわんばかりにバイアスのかかった世論調査結果が、今年も憲法記念日を前に各紙各様に載せられていた。
だが、「これが民意だ」という視点からおおいに興味深い分析がある。それは、元朝日新聞大阪本社編集局長で「木津九条の会」の長谷川千秋さんが九条の会メールマガジンに投稿された分析だ。「草の根からの市民の努力が着実に実り始めたことをうかがわせる民意」が、それらの調査結果でも示されているという…。
なので、以下に分析結果を紹介する。なお、データ部分を含む全文は九条の会オフィシャルサイトまで。長谷川さんありがとう。
(練金術師)

(1)「9条維持」は多数派である
 1年前、私は、マスコミ報道をよく吟味しよう、調査データをよく読めば、最大の特徴は「一路改憲へ」の動きが止まったことにある、と申し上げました。今年は、そのことが誰の目にも明らかになりました。改憲問題の焦点は九条ですが、どのような設問がなされようと、報じられたほとんどすべての憲法世論調査で「九条維持」の声が多数であることが明確になったからです。
 全国紙で最初に調査結果を発表したのは読売新聞でした。同紙は1994年秋、独自の全面改憲試案を発表するなど長年にわたって改憲キャンペーンをはり続けています。4月6日付朝刊で示された調査結果は、憲法全体の改定の是非について「改正派が昨年比9ポイント減った。3年連続のダウンだ」と同紙社説が嘆く数字になりました。97年調査以来という半数割れの46%です。それだけではありません。同紙は9条問題で新しい設問を用意しました。戦争放棄の第1項と戦力不保持・交戦権否認の第2項のそれぞれについて改定の必要の有無を聞いたのです。答えは、▽第1項「必要ある」14.0%、「必要なし」80.3%▽第2項「必要ある」38.1%、「必要なし」54.1%。どう聞いても9条維持派が過半数となりました。
 読売新聞の調査結果に示された民意に注目し、いち早く詳しく紹介したのは「しんぶん赤旗」(4月7日付)でした。しかし「しんぶん赤旗」の見方が“突出”していたわけではありません。その後、次々に発表された世論調査結果も、前年比で多少のデコボコはあるにせよ、基本的には読売新聞の調査結果と同じ傾向を示しました。共同通信の調査結果を報じた信濃毎日新聞は4月19日付社説で「憲法世論調査 9条堅持の民意は明白」とうたいました。地方紙の中には県単位で独自の世論調査を行ったところもありますが、「憲法と安保」の矛盾が集中する沖縄では、沖縄タイムスの調査で、憲法全体でも改定不要派が46%と「必要ある」派43%を上回る結果が出ました。
 集団的自衛権について、読売新聞調査で「これまで通り、使えなくてよい」と答えた人が50%で昨年比7ポイント増、共同通信調査でも「今のままでよい」が54.6%に達したこと▽朝日新聞調査で、自民党の新憲法草案にうたわれた「自衛軍」について尋ねたところ、「自衛軍に変えるべきだ」18%に対し「自衛隊のままでよい」が70%にもなったこと―なども、ごり押しで改憲への道を急ごうとする安倍首相と自民党政治への痛打となっています。

(2)市民の声がメディアを変える
 マスコミの世論調査報道は、設問の仕方、出てきた数字の解釈など恣意的な分析、意図的な報道内容のあり方が従来から問題とされてきました。憲法世論調査も同様で、近年、読者・視聴者・市民の間から、それを批判する声が高まってきたことは、大変よいことです。まだ部分的ではありますが、その効果が出始めたのも、今年の特徴でしょう。
 朝日新聞を例に取ります。9条問題で同紙が昨年、従来の設問の仕方を変えて複雑にし、その結果、「変更、維持の民意拮抗」としたことに強い抗議の声が起こりました。私も批判しました。今年の調査で同紙はこの設問方式を止め、単純明快な従来の仕方に戻しました。その結果は、9条を「変える方がよい」33%、「変えない方がよい」49%と出ました。毎日新聞は九条問題で昨年同様、複雑な設問を続けているばかりか、新たに恣意的な設問を増やしています。
 朝日新聞が国民投票法案の問題で3月、世論調査を行い、「国民投票『必要』68%」と打ち出したときも、市民の怒りを買いました。単に「国民投票の手続きを定める法律を作ることは必要だと思いますか」と問うた答えに過ぎなかったからです。憲法学者の水島朝穂・早大教授はただちに同氏のホームページで、「もし、日弁連(日本弁護士連合会)や野党などが指摘しているこの法案の問題点を具体的に列挙して、『そのような問題を含む法案を、いま、あえて急いで制定することに、あなたは賛成しますか』と問えば、『賛成』と答える人はグッと減るだろう。世論調査は設問の仕方で、回答をいかようにでも操作できるという例である。だから、朝日新聞がこの時期、このタイミングで『68%』という数字を出したことは、法案成立に向けて、国民多数が支持したというふうに勘違いさせるおそれなしとしない」などと痛烈に批判しました(同氏のHP・今週の「直言」07年3月19日)。市民のブログをのぞいていると、鋭い発言が続出していました。インターネットで抗議文を流した方もいます。
 その後、この法案が持つ問題点についての野党や市民団体などの批判が強まるなか、朝日は自公与党による法案強行突破の重大性に気付いたのか、「与党だけで押し切るな」(4月7日付)、「廃案にして出直せ」(同14日付)と社説を連発しますが、その過程で、4月14-15日に実施、17日付朝刊で発表した世論調査では、問題点の一つ、最低投票率問題を設問に入れ、投票率が一定の水準を上回る必要があると思うか、と尋ねます。結果は「必要がある」79%、「その必要はない」11%。この調査は、今回憲法世論調査と同じときに行ったものでしたが、同紙はこの件だけを抜き出して先行報道し、「国民投票法案 最低投票率『必要』79%」と1面トップで扱ったのです。同19日付社説では「最低投票率を論議せよ」と主張します。同紙は最低投票率問題を世論調査で取り上げた背景を説明してはいませんが、読者・市民からの抗議、運動が、国民投票法案問題をめぐる同紙の姿勢に一定の影響を与えたことは間違いないと私は思っています。
 それにしても、遅すぎました。法案が衆院を通ってしまってからだったからです。最低投票率問題以外にも、広報協議会のあり方、有料CM問題、教員と公務員を狙い撃ちした運動規制など、いまようやく様々な問題点が全国紙の紙面に出始めましたが、これらは昨年8月22日、日弁連が発表した「憲法改正手続に関する与党案・民主党案に関する意見書」にほとんどすべて含まれています。あのころから報道機関が問題点の解明に努力していたら、事態は相当違ったものになっていたでしょう。私たちは引き続き、メディアに目を光らせ、国民の「知る権利」にこたえよ、と要求していかなければなりません。

(3)本当の勝負はこれから
 今の憲法で「日本に平和が続き、経済発展をもたらした」と思うか?「YES」86.5%(読売新聞調査結果)。「日本がこの60年間、戦争をせずに平和であり続けたことに、9条が役立ってきた」と思うか?「YES」78%(朝日新聞調査結果)―。今年のマスコミ憲法世論調査は、平和憲法が国民の間にしっかり根づいていることを示す豊かなデータを提供しています。
 自社の調査結果に苛立ちを見せたのは、改憲勢力の牽引車を自負し、朝刊だけで1000万部、発行部数日本一の読売新聞です。調査結果を載せた日の同紙社説は「『改正』へ小休止は許されない」のタイトルで、「今日の国内外の情勢を踏まえれば、憲法改正作業は、休まず、たゆまず進めなければならない時代の課題だ」と強調。すさまじい勢いで同紙なりの「休まず、たゆまず」を開始しました。4月19日付「検証 憲法と政治の60年」▽同27日付「検証 憲法第9条」▽5月3日付「憲法施行60年特別フォーラム」(詳報)。朝刊で、見開き2ページの特集を連発しています。しかも紙面から護憲派の識者や政党関係者を一切排除する異様さです。これに呼応するかのように、中曽根元首相を会長とする新憲法制定議員同盟の動きが活発化します。中曽根氏は読売新聞に憲法世論調査結果が紙面化される前日の4月5日、首相官邸で安倍首相と会談し、改憲のために議員同盟を中心に国民運動を展開すると申し出ています。世論調査結果なども話題にのぼったのではないでしょうか。
改憲勢力の必死の巻き返しが始まったのです。ターゲットは9条です。アメリカとともに「戦争のできる国」にするためです。これに対する私たち護憲派市民のよりどころは、草の根の市民一人ひとりです。私たちも「休まず、たゆまず」です。本当の勝負はこれからです。