
それは暑い夏の日のことでした
この頃、・・
営業車の集金カバンが
盗まれる事件が多発していました
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僕はその日も
会社でやっているお店の前へ車を止めて
荷物を店の中へ届けてから
また 車へ戻ろうとすると
キョロキョロと妙な動きをする男がいました
不審に思い 店の中から
ガラス越しに見ていると
僕の車へ素早く手を入れて
集金カバンを掴んだのです
「今、何をしたんだ。」
飛び出して僕が叫ぶと
男は盗んだカバンを投げつけ
猛スピードで
道路を渡って逃げていきました
「泥棒ーっ」と
僕が大きな声で叫ぶと
店から店長が飛び出してきて
男を追いかけはじめました
そしてもう一人、道の反対側にいた
通行人も追いかけてくれました
しかし 結局、男は捕まえられず
二人は息も絶え絶えに戻ってきました

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間もなく刑事がきました
僕は起きたことを話していると
「で、君は何で追いかけなかったんだ?」と
刑事に聞かれました
「はい、」
「カバンが戻ったんで、つい安心して...」
「道を歩いていた人まで
追いかけてくれているんだよ。」
「すみません。」
「・・・・、」
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実は僕、
犯人ではなくて
投げつけられた集金カバンを
拾いに行ってしまったんです
性分でしょうか、
つり銭、1500円しか入っていないのに...

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あれから もう30年以上経ちますが
今でも男の顔は はっきりと覚えています
どこかで出遭ったら
今度は追いかけますよ
いや、無理かな...
関節が痛くて...
