精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

24時間の明晰夢(アーノルド・ミンデル)

2010-08-03 21:46:25 | プロセス指向心理学
◆『24時間の明晰夢―夢見と覚醒の心理学』(アーノルド・ミンデル)

「24時間の明晰夢」いう概念は、心理療法をスピリチュアルな実践に近づけたとミンデ ルは言う。読んでまったくその通りだと思う。これは、「語りえないタオ」、ブラブマン、 ブッダマインド(仏心)、「大きな自己」、つまりミンデルのいうドリーミングにつながる ための心理学だ。  

ドリーミングは、すべての日常的現実の基盤であり、人生の中核にあるエネルギーであり、 すべてのスピリチャルな教えの源泉である。しかも、それは微細な体験として日常生活の中 で私たちにたえず働きかけている。明確に捉えることができるあらゆる思考や感覚に先立つ かすかな知覚であり、傾向であり、夜見る夢にさえ先立つ。日常的意識に一瞬の体験として 現れ、非合理的で、夢のようで、ふつうは明確にとらえることはできない。  

一般にいう「明晰夢」とは、夜夢を見ているときに自分が夢を見ていることを自覚し、夢 の中で意識的に動けるようになることであった。ミンデルは、この明晰夢の概念を拡大し、 質的に転換する。  

もし、日常的な言葉では明確に捉えることができない、かすかな(センシェントな)傾向 を知覚する注意力を鍛え直すことができれば、驚くべき畏怖の念をだかせる現実が開ける。 日常生活の背景に潜むドリーミングの力を生きることが可能となるのだ。いっさいの出来事に先立つ傾向、すなわち日常的現実を発生させるドリーミングという背景にいつも気づいている能力を、ミンデルは「24時間の明晰夢」と名づけた。  

ミンデルのドリーミングの心理学が、伝統的なスピリチャルな教えに対して新しいのは、 ドリーミングを私たちの日常的な現実に対してたえず働きかけて来るプロセスとして捉えている点だ。 身体的な症状とのかかわりのなかで、もつれた人間関係のなかで、飲食物などへの嗜好のなかで、ドリーミングがどのようにその兆しを現し、どのように意識にとらえられるか、具体的なワークも示しながら語る。ほとんど言語化できない漠然とした感覚や直感として立ち現れる(=センシェントな)傾向を意識化する心理療法的な方法(ワーク)として画期的だ。  

意識を明晰に研ぎ澄ませば、タオはかくも様々な仕方で私たちに目覚めを促しているのか と、通読しつつ感動した。  

本書の最後にミンデル自身の印象的なエピソードが語られる。彼は、北米の先住民とのか かわりの中で予期せぬ裁判沙汰に巻き込まれる。彼が事実を正直に語ろうとすると相手側の 弁護士は「イエスかノーかで答えよ」と追いつめる。  

窮地に追い込まれたミンデルに一瞬ある画面が閃光のように蘇る。最初に法廷で「すべて の真実を、ただ真実のみを語る」と宣誓したときの記憶だ。多くの場合私たちは、このよう に気まぐれにふと蘇る記憶のイメージをまともに取り上げず、意識の端に追いやって忘れて しまうだろう(周縁化)。  

しかし、ミンデルはそうはしない。瞬時にそれをドリーミングからの働きかけと直感する。 そして相手の弁護士に静かに謙虚に告げる。「イエスかノーかとという答えは、申し訳ないが宣誓したようなすべての真実ではない」と。それを聞いた弁護士は、何か心に打たれるものがあったのだろうか、ミンデルが自由に語ることを認める。  

ミンデルは、自分の気持ちも含めたすべての真実を明確に話した。語りながら相手の弁護 士への敬服の気持ちや、対立する相手との友情への関心にも、気づいていたという。その結果、相手側は裁判をおり、和解が成立したというのだ。

「あなたが明晰さの訓練をすると、目覚めてもドリーミング・プロセスが続くことに気づ くだろう。‥‥あなたが明晰ならば、そして日常生活に展開していくセンシェントな体験を 忍耐強く追いかけるならば、『あなた』のドリーミングがあなたを目覚めさせ、生活の場面 にはいりこんでくることに気づくだろう。」

「あなたは一日中目覚めのプロセスが起こっていることを感じることができる。あなたが しなければならないのは、ドリーミングを認識し、センシェントな体験、知覚の神秘に注意 を払い、人生が開示し、展開し、創造されていくプロセスに気づくことである。」

『うしろ向きに馬に乗る』でも確認したようにミンデルはいつもタオが、日常的な現実、 生活の場面、人生の流れの中に展開していくプロセスに注目しているようだ。用語に慣れないとやや読みづらいかもしれないが、充分に読む価値のある本だと思った。


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