銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

不在

2011年09月29日 03時29分22秒 | 散文(覚書)
つい先程まで、友人がPC作業をしていた。僕の部屋で、僕の傍らで。
彼は仕事の原稿を打っていた。時に僕の助言を求め、時に日々の、僕らが擦れ違っていた空白の報告をして。

散らかった部屋の中、僕は煙草を喫い、そうして、明けて今日の仕事はどうなるかと、余計な事を考えていた。そして彼が好きなフィギュアスケート選手が円舞曲としていたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をスピーカーから流し、これがそうだよ、と教えた。



2時間程で、彼は帰って行った。



彼が呑んだビール缶がここに残った。彼の吐いた息もまだ、ここに残っている。しかし彼は今、僕の貸した自転車で家に着いただろう。



ピアノ協奏曲の第2楽章が、先とは違う趣で流れている。日中の雨の匂いも徐々に消えていく。そうして僕の中に、雨に似た憂いのピアノの音がたたかれてゆく。微に入り細をうがつ、ピアノの雨が。

やがて第2楽章の終わりと共に、哀しみは、ひすらぐ。次いで夢は、僕を召し籠む。「何も臆する事はない」、と。



夢とは、雨の残り香だろうか。
夢とは、不在の結晶だろうか。