カナリアは何色?
黄色に決まってるじゃないか,と思うかもしれないけれど,話はちょっと複雑です.というわけで本日は少しだけ自然史を.
カナリアは,ヒワに近い種類の鳥である.英国の野鳥図鑑 Collins Pocket Guide to British Bird (1986) では,Siskin (マヒワ)とか Goldfinch(ゴシキヒワ)とか Serin(セリン)などの近くに,Canary(カナリア)が図示されている.そこに描かれている「野生の」カナリアは,灰色っぽい緑色の,地味な鳥である.こういう色のカナリアを mule(らば)と言うらしい.
ヒワの類はどれも緑色を基調として黄色の混じる,似たような色調である.マヒワは日本にもいるので,まあ大体ああいう色調を想像してもらえば良い.ゴシキヒワは名前の通り美しいけれど,マヒワやセリンはちょっと地味.
カナリアのmule はさらに地味である.飼い鳥のカナリアが逃げ出して野生化し,その結果,色も先祖返りで本来の野生の色,ないしそれに近い色になったのだろう,英国で野外で見られるカナリアには,こういう mule から,飼育されていた時そのままの黄色一色まで,さまざまな変異が見られるそうな.
わざわざ説明するまでもないと思うけれど,カナリアという鳥の名は,元々は15世紀にスペイン人が航海から持ち帰った「カナリア諸島の鳥」に由来する.地味な色調の鳥であったが,「声」を楽しむため宮廷などで飼われた.異国の産物であるという希少性も宮廷でウケたことだろう.
その後は飼育下で徐々に「品種改良」が進み,そして1677年,ドイツのとある小鳥屋さん?が,何と全身まっ黄色のカナリアを作り出した.今われわれが知っている黄色いカナリアは,こうして誕生した.
まあ,そのような歴史が語られている.
外国産の飼い鳥が逃げ出して野外で繁殖したと場合,さまざまな影響が考えられる.その1つは,近縁種に対する影響だろうか.カナリアの近縁種としては,上述のセリンという野鳥がいる.セリン Serinus serinusとカナリア Serinus canaria は,この学名が示すように,同じ「属」である.よく似ているが,カナリアのほうが大きく,「長い」体つきをしていて,そのぶん翼が相対的に短い.
セリンの声を You Tube で聞くことができる.カナリアに近縁といっても,我々が知っているカナリアの美声とはずいぶん違っている.カナリアが飼い鳥として,良い声を選んで品種改良されてきたことは確かであるが,上記の通りそもそも当初よりカナリアは声の良さが買われ,声を楽しむ鳥として飼育されてきたのだろう.
ちょっと脱線.
英国には日本と同じ種類のハクセキレイがいる.しかし日本のハクセキレイが飛びながらピピッ,ピピッ,ときれいな声を出すのに対し,英国のハクセキレイの声は地味である.鳥の声は一つの自己主張だろうから,鳥の声が力強く美しい地方には,そういう声を必要とするような条件があるのだろう.たとえば強力な競争相手のいるような地方では,そいつに負けないような声を鳥も進化させるだろう.そのように考えるなら,セリンとカナリアの声の違いは,そういう違いを生み出すような風土的バックグラウンドの違いを反映しているのかもしれない.
セリンはフランスからデンマークまで,けっこう広く分布しているが,英国ではメッタに見られない.つまりセリンは歴代ずっと,ドーバー海峡の対岸に植民を試みているわけだ.しかし,この英国攻略作戦は,今までのところ大きな成功を収めるには至ってないらしい.
仮に将来,セリンの英国侵攻が本格的に開始したら,それを迎え撃つのは英国で野生化したカナリアたち,というような図式になるのかもしれない.上記の図鑑が出版されてもう30年近くが経過しているわけで,英国の野生カナリアは今どういう状態なのか,興味深いことである.
黄色に決まってるじゃないか,と思うかもしれないけれど,話はちょっと複雑です.というわけで本日は少しだけ自然史を.
カナリアは,ヒワに近い種類の鳥である.英国の野鳥図鑑 Collins Pocket Guide to British Bird (1986) では,Siskin (マヒワ)とか Goldfinch(ゴシキヒワ)とか Serin(セリン)などの近くに,Canary(カナリア)が図示されている.そこに描かれている「野生の」カナリアは,灰色っぽい緑色の,地味な鳥である.こういう色のカナリアを mule(らば)と言うらしい.
ヒワの類はどれも緑色を基調として黄色の混じる,似たような色調である.マヒワは日本にもいるので,まあ大体ああいう色調を想像してもらえば良い.ゴシキヒワは名前の通り美しいけれど,マヒワやセリンはちょっと地味.
カナリアのmule はさらに地味である.飼い鳥のカナリアが逃げ出して野生化し,その結果,色も先祖返りで本来の野生の色,ないしそれに近い色になったのだろう,英国で野外で見られるカナリアには,こういう mule から,飼育されていた時そのままの黄色一色まで,さまざまな変異が見られるそうな.
わざわざ説明するまでもないと思うけれど,カナリアという鳥の名は,元々は15世紀にスペイン人が航海から持ち帰った「カナリア諸島の鳥」に由来する.地味な色調の鳥であったが,「声」を楽しむため宮廷などで飼われた.異国の産物であるという希少性も宮廷でウケたことだろう.
その後は飼育下で徐々に「品種改良」が進み,そして1677年,ドイツのとある小鳥屋さん?が,何と全身まっ黄色のカナリアを作り出した.今われわれが知っている黄色いカナリアは,こうして誕生した.
まあ,そのような歴史が語られている.
外国産の飼い鳥が逃げ出して野外で繁殖したと場合,さまざまな影響が考えられる.その1つは,近縁種に対する影響だろうか.カナリアの近縁種としては,上述のセリンという野鳥がいる.セリン Serinus serinusとカナリア Serinus canaria は,この学名が示すように,同じ「属」である.よく似ているが,カナリアのほうが大きく,「長い」体つきをしていて,そのぶん翼が相対的に短い.
セリンの声を You Tube で聞くことができる.カナリアに近縁といっても,我々が知っているカナリアの美声とはずいぶん違っている.カナリアが飼い鳥として,良い声を選んで品種改良されてきたことは確かであるが,上記の通りそもそも当初よりカナリアは声の良さが買われ,声を楽しむ鳥として飼育されてきたのだろう.
ちょっと脱線.
英国には日本と同じ種類のハクセキレイがいる.しかし日本のハクセキレイが飛びながらピピッ,ピピッ,ときれいな声を出すのに対し,英国のハクセキレイの声は地味である.鳥の声は一つの自己主張だろうから,鳥の声が力強く美しい地方には,そういう声を必要とするような条件があるのだろう.たとえば強力な競争相手のいるような地方では,そいつに負けないような声を鳥も進化させるだろう.そのように考えるなら,セリンとカナリアの声の違いは,そういう違いを生み出すような風土的バックグラウンドの違いを反映しているのかもしれない.
セリンはフランスからデンマークまで,けっこう広く分布しているが,英国ではメッタに見られない.つまりセリンは歴代ずっと,ドーバー海峡の対岸に植民を試みているわけだ.しかし,この英国攻略作戦は,今までのところ大きな成功を収めるには至ってないらしい.
仮に将来,セリンの英国侵攻が本格的に開始したら,それを迎え撃つのは英国で野生化したカナリアたち,というような図式になるのかもしれない.上記の図鑑が出版されてもう30年近くが経過しているわけで,英国の野生カナリアは今どういう状態なのか,興味深いことである.