事のなりゆき

日々のなりゆきを語ります

自然をいじっちゃいけなかったんだよ。もうすんだ話だけど・・

2008-12-25 13:28:37 | Weblog
1986年1月26日午後11時ころ新潟県西頚城郡能生町(現糸魚川市)柵口で幅200m、長さ1800mの国内最大の雪崩が発生、死者13名、負傷者9名、全壊家屋8棟、半壊2棟など大きな被害が出た。一報を受けた私は新潟市から車を飛ばし、取材に向かった。現場に着いたのは深夜2時ころだった。地元消防団や警察官らが雪崩で生き埋めになった人たちの救出にあたっていたが、視界をさえぎる猛吹雪で作業は難航していた。土地勘のないわれわれ取材班にとってはどこに家があったのか、どのくらいの家が雪崩で押し流されたのかが全く見当もつかないくらいだった。現場はただの雪原にしか見えなかった。ただ、ところどころに屋根らしきものが転がっていたり、雪原の上から家の柱と思われるような木が突き出ていた。
 雪崩は雪面をすべる表層雪崩であることが後にわかった。一週間前に雨が降り、その後急に冷え込んで大雪となっていた。その降った雨粒が凍って滑車のような役割を果たし、新たに積もった雪面をすべり落したというものだ。運よく難を逃れた人の話では「ヒュー」という音がしたあとに「ドーン」と雪が家の中に入ってきたと証言をしている。雪崩の専門家によれば雪崩の速さは200kmとも300kmともいえるほどの速さだという。逃げる間などはない。
 それからおよそ10ヵ月後、息子さんを失った遺族を訪ねた。年末の番組でその年の事件事故を振り返るという企画のためだ。息子さんを失った遺族に直接電話をするとためらいながらも取材を許可してくれた。雪崩から家を建て直さずに別の集落に暮らしていた。訪問してすぐに私は仏壇に手を合わせた。そしてぽつりぽつり小さな声で話し始めてくれた。「ヒューと音がしたと思ったら、雪が・・・」目を大きく見開き、天井をにらみつけるように話す。一言一言かみしめるようにゆっくりとその時を振り返った。そしてちょっと間があった。「・・・その瞬間思ったんだよ。あの木を切ってはいけなかったんじゃなかったかって・・・」数年前スキー場を作る時に樹木を伐採をしたらしい。その人は反対した。でも観光客も来るし、地域のためになるからとそれ以上は反対はできなかった。「もう済んだ話だけどさ。やっぱり自然をいじっちゃいけなかったんだよ・・。あの音からすぐに雪が来た時におれはほんと思ったんだよ」何回も何回も繰り返した。そして最後に「昔の人はさ・・・・息子は二人作っておけっていったんだ・・・・。なにかあるとさ、欠けるからってさ・・・・」そう言って、肩を落とした。あれから23年。いまだにあの時の顔は忘れられない。
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