五劫の切れ端(ごこうのきれはし)

仏教の支流と源流のつまみ食い

「知的計画」に御注意 其の弐

2005-12-02 14:46:34 | 仏教以外の宗教
■間が随分と空いてしまいましたが、10月20日朝日新聞掲載の「かがく批評室」の記事を続けます。


アメリカでは創造論運動が公教育において政教分離原則を踏み越える事件を起こして来た。1920年代南部で「反生物進化論州法」が、そして80年代に「創造科学」と生物生物進化論の授業時間数を同じにする「均等化州法」が成立した。しかしこれらの州法はすべて合衆国憲法修正条項第1条(「国教樹立の禁止」)に基づき無効とされてきた。ところがここ数年、「インテリジェント・デザイン論」という「新手の科学論」で勢いづいた創造論運動が、再び各地で生物進化論をめぐる教育論争を巻き起こしている。

■20年代の状態は知りませんが、80年代の米国に滞在していた経験から言いますと、この一説にはいろいろと考えさせられます。まず、「国教樹立の禁止」は、英国国教会の弾圧を逃れて新大陸に渡ったピルグリム・ファーザースの建国精神からすれば当然の規定と思われ、日本の学校教育で学ぶ米国のイメージにも合致しています。しかし、80年代の「均等化州法」の成立という事態は、教科書やマスコミから溢れ出す「米国からの生中継」とは隔絶した印象を受けるのではないでしょうか?ブッシュ大統領の再選騒動の時には、少しばかり米国の宗教事情が取り上げられましたが、まだまだ米国の精神に澱んでいる深い闇には届きません。

■通信販売・カタログ販売・長距離電話・テレビジョン・インターネット……これらは全て米国が生み育てた文明の利器です。自家用飛行機なども加わるでしょう。あの広大な大地に暮らす人々にとって「距離」は大変な問題でした。インカ帝国を滅ぼし、先住インディアン(誤称です)を追い回した馬が自動車に変わっても、あの国土の巨大さは変わりません。西部開拓時代に新設された町に移住した人々は、精神と教育の中核となる教会建設を熱望して、馬車で巡回する牧師さんが大活躍したようです。それが、テレビの電波を使って同時に数千万人に向かって語りかける時代になったのです。

■早朝のテレビ番組には宗教法人が買い取った時間枠が並んでいたのを思い出します。大昔にビートルズが一時的に心酔して師事した懐かしいインドのヨギが毎朝説教していたり、テレビ牧師が低い声で神を語っている番組も目白押しでした。個人的に注目していたのが、説教をしている内に自己陶酔してしまう牧師さんで、感極まると右の掌をかざして「さあ、あなたの手を画面の私の手に重ねて下さい……」と言い出すのを楽しみに待っていたものです。同じ頃に日本テレビが来日させて荒稼ぎしたユリ・ゲラー君を思い出させる演出だったので、軽い静電気を感じるだけのブラウン管に手など近づけずに牧師さんの真剣な顔を観察するのが好きでした。

■特別に豪華なセットを組める予算が無かったらしく、80年代初頭のテレビ説教は質素な物でした。それが今回のブッシュ大統領再選の陰で巨大な力を誇示して、恐るべき成長を遂げている現実に驚嘆したものです。都市の郊外に広大な施設を建設して最先端の映像・音響技術を駆使して、もう「ブラウン管に手を当てて下さい」などと言わなくても良くなっているようです。識字率の低下が大きな問題になっている米国の下層社会で苦労している人達が、唯一の本として聖書だけを熟読している現実が、ブッシュ大統領の「十字軍発言」を大歓迎してイスラム教徒に対する違法行為も黙認する米国を現出させているようです。

■ついでに、こんな思い出も書き添えましょう。チャーリー・ブラウンやスヌーピーで有名な「ピーナッツ」が新聞の四コマ漫画に連載されていて、寝惚けた頭を起こす英語教材として愛用しておりました。時々、米国の最新情報を知らないと笑えない風刺ネタが有ると知人に説明してもらったものです。その中に、こんな作品が有りました。記憶は定かではないのですが、ダイム(10セント硬貨)を拾った誰かに、チャーリー・ブラウンが、


これから落ちているダイムを見つけた時には、
「I FOUND!」と言おう。

すると、お馴染みのメンバーが賛成する。

■それだけの話でした。下宿しているユダヤ人家庭で最初に新聞を見て質問をするのが習慣でしたから、起きて来た友人に漫画を見せたところ、一瞬で眠気が吹き飛んで大笑いし始めたのです。家族全員に見せて回るばかりか、切り抜いてポケットに入れて、「是非とも友達に見せねばならない」と言うのです。一家全員が大笑いして感心するほどの傑作ジョークらしいのですが、こちらはさっぱり分かりません。文意は正確に理解しているはずなのに……。笑いに参加出来ない日本人を哀れに思った友人は、家族の前で実演付きで解説してくれて合点が行きました。

■どうやらベトナム戦争後に教会に足を運ぶ若者が激減した事に危機感を募らせたキリスト教勢力が、莫大な資金を投入してテレビの大キャンペーンを展開したようです。それは集中豪雨のようなスポットCMで、素人が自分の名前と居住地名を言ってから、


I FOUND!

と満面の笑みを浮かべて叫ぶだけの作品で、毎回違う素人さんが登場して同じ事を叫ぶのだそうです。でも、「何を見つけたのか」は言わないで、直後に画面には


「それを知りたい人は、今すぐココに電話して下さい。あなたもきっと見つけますよ」

という文字だけの場面が数秒間ながれる。気になって電話してみると、待ち構えていた「宣教師」軍団の巧妙な勧誘の餌食になるというわけです。この大キャンペーンはマスコミを研究する専門かも驚嘆する大成功を収めたのだそうです。

■米国内の教会が、こうした地道な努力を重ねた結果が、現ブッシュ政権の出現につながったとしか思えません。IT技術で世界を支配しようとしている米国は、次の段階に進んでいるようです。

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