五劫の切れ端(ごこうのきれはし)

仏教の支流と源流のつまみ食い

悪魔を便利に使う男 其の参

2005-12-06 14:31:18 | 仏教以外の宗教
其の弐の続き

■神様がどうして、こんな罠を仕掛けたのか、神の真意を考えるのがスコラ神学の大きなテーマでした。単純に考えると、神様は意地の悪い御方のような気がしますが、創造神話は実際の人間存在を分析して導き出された人間の起源を説明する仮説でもあります。実際に人間の心に巣食っているどす黒い「悪」の存在は否定できないので、それも万能の創造神が造ったに違い有りませんから、象徴的に蛇に重要な役割が与えられました。大方の人は蛇が嫌いなので、この配役は簡単に決ったのでしょう。その蛇が登場するのが第3章です。


さて主なる神が造られた野の生き物のうちで、へびが最も狡猾であった。へびは女に言った、「園にあるどの木からも取って食べるなと、ほんとうに神が言われたのですか」。女はへびに言った。「わたしたちは園の木の実を食べることは許されていますが、ただ園の中央にある木の実については、これを取って食べるな。これに触れるな、死んではいけないからと、神は言われました」。へびは女に言った。「あなたがたは決して死ぬことはないでしょう。それを食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知る者となることを、神は知っておられるのです」。女がその木を見ると、それは食べるに良く、目には美しく、賢くなるには好ましいと思われたから、その実を取って食べ、夫にも与えたので、彼も食べた。すると、二人の目が開け、自分たちの裸であることがわかったので、いちじくの葉をつづり合わせて、腰にまいた

■賢くなる事を神様は禁じている理由を考えますと、学校や教育が邪悪なものに思えて来ます。男性が女性にたぶらかされる原因を、女性が蛇にたぶらかされた事で説明しているわけですが、蛇が悪魔の化身だとすれば、着衣を教えたのが悪魔で、神は裸を好んでいたことにもなりますから、年齢に関係なく女性を見れば直ぐに裸にしたくなる困った趣味を持った男達は、神の支持に従っていることにもなりそうです。ただし、このエデンの園からの追放劇に出て来る蛇が、本当に悪魔なのかどうかは議論が有るようで、元々は天使だったという説も有りますし、神に憎まれて堕天使となったのが蛇だと解釈する人もいます。そのように「悪魔」学は非常に複雑で面白いテーマを含んでいるのです。

■自称日系ペルー人が、どんな「悪魔」をイメージして逃げ口上に使っているのか、簡単には分からないでしょうが、彼が「悪魔」について何も知らないという可能性も有ります。自分の心に性的な欲望が兆して来た時に、そのデモーニッシュな感覚を「悪魔」と呼んでいるだけかも知れません。だとすれば、彼は「悪魔」に取り憑かれる快感が大好きだということになりますから、彼は神を信じているのではなく、「悪魔」が大好きな単なる無学な変質者になってしまいます。もしかすると、父親が日本に職探しに出掛けてくれて、一番助かったのは、彼の娘さんだったかも知れません。キリスト教徒の中で、何故か父と娘の暴力的な近親相姦事件が多発する傾向が有るので、父親が自分の娘の前で、何時、悪魔に取り憑かれるか分かったものでは有りませんから。

■聖書の『創世記』に出て来る特別な木は二本ありました。善悪を知る知恵の木から、悪魔、蛇、女性の連鎖が考え出されましたが、もう一本の「生命の木」については何も記述が無いのです。これをユダヤ人は補って、壮大なカバラ神学を構築しました。『ゾハル』などという密教教典も編纂されて、上下を逆にした「生命の木」を象徴として宇宙の謎、存在の謎、神の真意を解き明かす知恵を再構成したのです。一時、日本で大流行した『エヴァンゲリオン』というアニメ作品は、カバラ神学の一部分を切り取って物語の重要な要素にしていたようです。

■単なるエンターテインメントではない「悪魔」が、続々と日本に入って来る時代です。まあ、サタンと日本人は同じものだ!と叫ぶキリスト教もどきの信仰集団も存在していますが、余り簡単に「悪魔」を扱っては行けません。飽くまでも、悪魔は神を際立たせる存在として考案されたのですから、頭が混乱したら聖書を閉じて、ゾロアスター教の『アベスター』を開いて、悪魔のルーツでも勉強した方が良いでしょう。古代ペルシアは、古代ユダヤの偉大なる師匠だったのですから……。

おしまい
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2 コメント

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アベスター (mugi)
2005-12-11 19:53:55
旅限無さんも『アベスター』を読まれてましたか。ユダヤよりゾロアスター教の方が先だったのを知る方は少ないですよね。

残念ながら『アベスター』は4分の3が失われた惨状ですが、旧約聖書でキュロスが記されたので、古代ペルシアの栄光も知られるようになったのでしょう。



何年か前、アメリカの武装カルト集団のボスでコレシュと名乗った男がいましたが、キュロスにあやかったそうです。傍目から見れば単なる狂人としか思えませんが、だからこそ人を惹きつけるところがあったのかもしれません。
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mugiさんへ (旅限無)
2005-12-11 21:46:38
おっしゃる通り、ゾロアスター教に関しては文献が乏しいので学者は推測を避けて腰が引けた研究が多く、ニーチェの『ツァラトストア』を代表に、ロマンと妄想の材料になってしまいがちですね。旧約聖書の思想的基盤を読み解いた方がその全貌を知るのにてっとり早いくらいのようです。比較的文献が残っている『ズルバニズム』に興味を持った事が有りましたが、西洋哲学と東洋思想をその「時間論」で結び付けられないかな?と思っているうちに、興味が別の方面に移ってしまったので、これも宿題として残して有ります。mugiさんのような熱心な読者がいらっしゃるので、その内、宿題を少し進めたいと思います。毎回、素敵なコメント有難うございます。
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