五劫の切れ端(ごこうのきれはし)

仏教の支流と源流のつまみ食い

冷戦の終わりで復活する神々 其の壱

2005-09-03 22:53:16 | 仏教以外の宗教
■今回は仏教から少し離れて、異国の神について考えてみます。イラクが米国の「民主化」戦略に従った御節介な戦争で、民族と宗派によって三巴の対立に苦しんでいます。バース党というソ連の傀儡政党がイラクを支配していた時代が終ったのも、冷戦が終ってソ連が崩壊したからでした。東西冷戦は、社会主義陣営と資本主義陣営の対決という構図で説明されていましたが、実際にこの対立が消えてみて始めて、民族と宗教の矛盾を丸呑みにして米ソがそれぞれの価値観を押し付けていた事が明るみに出始めました。

■米国は資本主義陣営の盟主として勝ち名乗りを上げましたが、宗教的な面から見れば、プロテスタント色の強いキリスト教最大の護教国家として他の宗教勢力の上に君臨しようとしているように見えます。神など不要の富と権力を持つ血族に生まれた今の米国大統領は、大学時代に伝統的な男性専用の秘密結社に入っている事は衆知の事実ですが、親から分け与えられた資産を増やせず、酒に溺れていた40代に保守的なキリスト教の牧師によって信仰に導かれて「再生」したことを公言して憚(はばか)らない人物です。世界の警察官を自認する大国の進路を定める巨大な権力を持ちながら、日々『聖書』の学習を重ねているとも伝えられます。

■キリスト教を国教化して地中海世界と欧州全土を支配したローマ帝国の再来でもありますし、その後の神聖ローマ帝国を代表とするカトリック教会を支える世俗の支配者として十字軍を組織した欧州の王達と同じ役割を担おうとしているとも言えるでしょう。しかも、純粋なカトリック国ではない上に、憲法上は政教分離の近代思想を継承しているのですから、バチカンからの命令や示唆によって行動するのでもありません。自国の正義を神の名によって実行するのですから、これは21世紀最大の問題でしょう。

■ユダヤ教から分離独立して本家を弾圧したキリスト教の歴史と、アブラハムの神を供に拝んだマホメット以来、長い間ユダヤと共存していたイスラームとの三つ巴の歴史は、日本人にはとても理解し難いものですが、欧米のキリスト教に比べて、アジアのユダヤとイスラームに親近感を持っていた時期が、戦前の日本には有りました。明治から昭和にかけて、最大の仮想敵国だったロシアも強大なキリスト教帝国でした。欧州のキリスト教徒は別の臭いを持っていたロシア正教には不思議と日本人は親しみを感じたようで、ロシアの文学や音楽を愛好しながら、彼らの信仰や文化にも興味を持った人々が居ました。

■この程度の大雑把な宗教史に関する知識では、イラクの現状を理解するのは不可能ですし、米国が強い指導力を発揮して押し付けた中東和平プランについても良し悪しを論ずることも出来ません。そんな日本の新聞に、こんな記事が掲載されました。


典礼は正教ながらローマ法王の首長権を認める独特のキリスト教会である帰一教会が21日、総本山をウクライナ西武のリビウから同国の首都キエフに移した。キエフはロシア正教の揺籃(ようらん)の地とされ、カトリックの本格的な進出を示すものとして反発を呼んでいる。
帰一教会は16世紀末の成立以来、同国西部が本拠地だっただけに、スラブ民族が10世紀にキリスト教を初めて受容した地キエフへの総本山移転は歴史的な意味を持つ。ロシア正教会はカトリックによる正教圏への本格的な勢力拡大と反発、アレクシー2世総主教も「我々とカトリック教会の関係を緊張させる」と警告した。この日、帰一教会指導者のフサル枢機卿(すうきけい)は建設中の新総本山、キリスト復活大聖堂の敷地で約3000人の信者を前に祈祷式をした。
帰一教会はギリシア・カトリック、ユニエイトとも呼ばれ、信者はウクライナ西武を中心に約600万人。第2次大戦後にソ連が禁止し、教会施設はロシア正教会の所有とされた。89年に合法化されると教会施設の多くを奪還、同正教会と紛争が生じた。その解決をアレクシー2世はローマ法王ベネディクト16世と頂上会談をする条件の一つにあげている。


■こんな記事を国際面の小さなスペースに捻じ込んで、読者にどんな情報を伝えたいのか、理解に苦しみますが、ロシアとウクライナの関係には核兵器の管理問題や黒海の制海権などの問題も絡むので、軽々に扱うわけには行きません。

其の弐につづく

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