（第五章-２）小笠原和彦著『李珍宇の謎』…「サクッと死んで、来世に期待！」トンデモカルト教誨師

 （第五章-1）から続きます。 

【李珍宇・小松川事件について】

・1958年4月20日、賄い婦の田中せつ子さんが殺害される。
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・1958年8月17日、東京都江戸川区の東京都立小松川高等学校定時制に通う女子学生（当時16歳）が行方不明になる。
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・1959年2月27日、李珍宇（在日韓国人）は犯行時18歳であったが、「賄い婦殺人事件」も含めた殺人と強姦致死に問われ、に東京地裁で死刑が宣告。
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・二審もこれを支持、最高裁も1961年8月17日（被害者の命日）に上告を棄却し、戦後20人目の少年死刑囚に確定。事件の背景には貧困や朝鮮人差別の問題があったとされ、文化人や朝鮮人による助命請願運動が高まった（自白だけで物証がなく冤罪という説もあった）。
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・1962年8月には東京拘置所から仙台拘置支所に移送（当時東京拘置所には処刑設備がなかったため）
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・同年11月16日に異例のスピード執行された。

 

小笠原和彦著『李珍宇の謎』の目次 （五章以降）

 

【共産主義嫌いの死刑制度大賛成のトンデモ神父が、珍宇を担当していた】

五章の後半は衝撃的な話になっていきます

小笠原氏たちは、珍宇の教誨師をやっていた『志村神父』を訪ねます。志村神父は江戸川橋駅の近くにあるカテドラル大聖堂の神父をやっていた。（小笠原氏が取材した当時の話です。志村神父は既に亡くなってるでしょう。1987年あたりで彼は80代になっていたのですから。）

珍宇は1989年2月27日以降から、志村神父に教誨師として担当されるようになったらしい。ただ、志村神父に会う前からキリスト教への信仰には興味があったようです。珍宇が獄中で時間無制限で接せられる人間はこの志村神父のみなので、彼と二人っきりで居れば、珍宇はとことん志村色一色に染まることになります。

そして、1968年８月、死刑執行室がある仙台刑務所に移送されたあと、志村神父とはサヨナラになっています（当時、東京拘置所には死刑執行室がなかったそうです。意外ですね）。志村神父は、珍宇の面倒を最後まで見なかった、ということになります…

 

小笠原氏たちが志村神父からあれこれ意見を聞き出すのですが、彼の意見や考え方を以下列挙します。以下に書くのは、カソリック神父が全員そういう考えだ、ということではなく、志村神父独特の考え方だと思います。

●珍宇を担当していた教誨師・志村神父の意見、思想●

・珍宇ははじめ神の存在というものがわかってなかったから、まずそれを彼に教えた。そのとき聖書は使わなかった。

・神の存在と来世の問題…とにかくこれが大事

・死んだ後でも来世がある。前世で悪いことをしたとしても、神の前で詫びて功徳をつんだら来世で同じ恵みを受けることができる。

・共産主義は間違いである。

・共産主義は宗教を受け入れないところがあるので良くない

・教えのために命を捧げた長崎十二聖人の話を珍宇にはした。教えのために命を捧げた人の生涯を知ったら、ありがたく死にやすいだろうから

・カソリックの信仰を受け入れた死刑囚は、落ち着いて立派に死ねます。まあ、信仰を持たない死刑囚は無理でしょうが。

・死刑制度には無論、賛成。殺した人はその責任をとるのは当然。

・人を殺しておいて、死刑を止めるなんて、そんなバカな話があるか。

・罪人の矯正なんてできるものではない。矯正よりも、成敗してしまうことが、まわりの人のためにも、気の安まることだろう。

・冤罪は、たまに、そりゃあるでしょうが、そのために死刑を廃止するべきではない。

 

珍宇は志村神父から洗脳されてしまったため、一審で姦淫を頑なに否定してたのが、二審で「やっぱり、ぼく、やりました！」と、あっさり証言を変え、死刑を受け入れる精神状態にスイッチが切り替わってしまったことになる 

志村神父が国家から与えられた役割というのは、『死刑執行の際、死刑囚が抵抗せず、穏やかに刑を受け入れるための洗脳』だと思われる。なので、上告のとき珍宇を担当した寺本弁護士は、「珍宇は宗教というアヘンを飲まされてしまった」＝「死ぬことを苦痛に思わない洗脳を施された」と言っている。

（管理人の私の主観ですが…おそらく志村神父は、自分が担当する獄中者たとを内心見下しながら教義を施していたと思われる。彼は在日朝鮮人である珍宇を心の中で嫌っていただろう。この神父は「悪者を成敗する仕事に自分は貢献しているのだ！自分は正義だ。また今日も悪人を成敗してやったぞ！」と思いながら、獄中者たちを死刑台に送っていたと思う…。また、この神父は古希（７０歳）を記念して、私家版の本を作り、そこに珍宇のことを書いたというが…こんな宗教者が７０歳以上まで生き永らえ、片方は２２歳で処刑。私はやるせなくなる。）

 

また、珍宇が最も頻繁に仲良くしていた文通相手の女性・朴壽南（パク・スナム）さん…彼女が珍宇に差し入れた『朝鮮民族解放闘争史』…これを珍宇くんが「読むモチベが下がった」とネガティブに言ってたのも納得できる。珍宇は、獄外にいる壽南（スナム）さんよりも、獄中でずっと一緒にいた志村神父からの影響のほうを強く受けてしまったのだ。

そう理解した上で、以下の李珍宇全書簡集を読むと、また違った味が出てくると思います…

（第六章）に続きます。

 

以下、もう少し管理人の私の感想とゴタクを書きます。

この本『李珍宇の謎』を読み始めたとき私は、『在日韓国人がテーマだから→キリスト教は韓国人を救うスンバらしい宗教だ！』そういうパターンで爆進してくのだろうな～…と白々しく思っていた。しかし、現在のネット右翼や籠池や悪質死刑存置派を彷彿させるブラック神父が登場してしまい、私の予想はことごとく打ち砕かれた

「罪人の矯正なんてできるものではない。矯正よりも成敗してしまうことが、まわりの人のために良い」…ネットで私に現在もからんでくる“悪質なタイプの死刑存置派”とほぼ、言っていることが変わりません。こんな人が宗教者で、獄中者の教誨をしてたなんて…目まいがします。

「来世があるさ！」って、これではオウム真理教の新実智光みたいになってます。

突然申し訳ないですが…私は宗教が苦手です。宗教が関わるナラワシ、シキタリなど、昔の人がつくった非科学的なものは、ケガレ思想など、差別思想を性質を持ったものが多いとか、色々理由がありますが（昔にさかのぼるほど人権意識というものは、薄くなるので）…特に私にとってキリスト教はかなり苦手な宗教のうちの１つに入ります。それは私がLGBTｓだからというのと、聖書には女性差別記述が多いということ。所詮、男性たちが作った宗教でしかないので。また、キリスト教というのは、LGBTｓ（性的少数者）を大否定している代表的宗教だから、なおさら苦手。しかし、LGBTｓを擁護してくれているキリスト者に関しては、その限りではありません。

この志村神父は、「共産主義は神の存在を否定するから」と言っていましたが、確かにそれは正しいと思います。でも、左翼思想のクリスチャンというのは存在します。が…私の知ってる限りでは、その人達はカソリックではなく、プロテスタントでした。

とにかく、まさか、珍宇くんが獄中でこんなバリバリの右・保守系の人に洗脳されてたとは…想像もできてませんでした…私は今のところ李珍宇全書簡集を少ししか目を通してませんが…珍宇くんが、「女性はヒステリーを与えられ」どうとかジェンダーバイアスというか性差別的なことをスナムさんとの手紙の中に書いていて…私がそれを見かけたときグッタリしてしまったのですが…「当時まだ昭和３０年代だったし仕方ないのかも」とか思っていたのです。しかしこういう籠池系神父（笑）に洗脳されていたとなると、それも影響してたのかなと思ったりもします。聖書の中には女性差別記述が多いですしね…「教会で女はしゃべらず黙ってろ」とか…女は男の一部から作られた、とか、生理は女に与えられた罰とか、処女崇拝とか…。しかし現代の人権派牧師は、そういう部分は否定しながらきちんと教義をしてくれるのですが、原理主義的な神父や牧師になると、それをまんま正しいとして人に教えるだろうね。