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月子のティーハウス(絵本)を作成しております

第3話・ひとみ

2024年07月10日 | 月子のティーハウス(プロローグ・第1話~第5話)

ご訪問ありがとうございます

月子のティーハウス
(moon child's tea house)

第3話 ひ と み

夏の大雨も過ぎ去り
大気の粒子が少しずつ変わり始めていた
風返しの坂の上は、夏が過ぎようとしている

「月子さんですね、お邪魔してもいいですか?」
「はい、いらっしゃいませ」

「私、ひとみです」
「ひとみさん、お近くの方でしょうか?」

「ひとみ川の近くに住んでいました」
月子は頷いた

「私、冷たかったから温かい飲み物がほしいです」
「はい、只今ご用意いたします」

アッサムとアールグレイの茶葉を月子は取り出した
ティースプーンに一杯ずつポットに入れ
それから熱湯を注いだ

「…ずっと前に、大雨があったの」ひとみは話し始めた
「どなたかが、お怒りになったらしいって」

ミルクパン(鍋)に紅茶を移すと、月子はさらに牛乳を加えた
そしてミルクパンを火にかけ、ぐらりとするとマグカップに注いだ

「気が付いたら、私…手を挙げていたの」

「ひとみさん、お待たせいたしました」
メイプルシロップの小瓶と共に、月子は飲み物をお持ちした

「こちらをお飲みになり、温まってください」

「美味しい牛乳、これ何ていう飲み物?」
「ロイヤルミルクティーです」

「この干菓子も美味しい」
「そちらはビスケットです」月子は微笑んだ

飲み終えると、ひとみはホッとした様子だった
「やっぱり来てよかった、月子さんごちそうさまでした」

「ひとみさん、ありがとうございました」

ティーハウスのドアを出ると
ひとみは、雑木林のけもの道の中へ帰って行った

ご一読ありがとうございました

コメント (2)
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月子のティーハウス・プロローグ

2024年06月05日 | 月子のティーハウス(プロローグ・第1話~第5話)

ご訪問ありがとうございます

ショートストーリーを書き始めました
「絵本にできたら…」と思います

どうぞよろしくお願いいたします

月子のティーハウス
(moon child's tea house)

プロローグ

月子(つきこ)のティーハウスは、市街地から離れた山間にある
風返しの坂を上(のぼ)り、階段と舗装されていない道をさらに上がる

周囲は雑木林に囲まれる
近くには大きな楠があり、ティーハウスを見守るように茂っている

天気の良い日は木漏れ日が眩しく、日差しは穏やかに地表を温める
夜の林は深い闇へと変わり、遠くからは川音が聞こえる

深夜の風は木々の葉を揺らし、ザワリザワリと音をたてる

ご一読ありがとうございました

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第5話・パネラ

2024年05月29日 | 月子のティーハウス(プロローグ・第1話~第5話)

いつもありがとうございます
お読み頂けるとうれしいです

月子のティーハウス
(moon child's tea house)

第5話 パネラ

夕日が沈み、月子はティーハウスに明かりを灯した
窓からは寂しそうな秋のオールドローズが見えた

「月子さん、遅い時間によろしいですか?」
小柄な女性は、思春期の少女にも成人にも見えた

「いらっしゃいませ、構いません」月子は答えた
「赤ワインはありますでしょうか?」

「テーブルワインでよろしければご用意できますが」
「うれしい、お願いします」

月子は赤ワインをカラフェに移した
バカラのワイングラスを用意し、カマンベールチーズとクラッカーと共に運んだ

「私、名前はいくつもあったの、でもパネラって呼んでください」
「パネラさんは、いろいろな所にお住まいだったのですか?」

「ええ、いろいろな所、そしていろいろな時間です」
パネラは赤ワインを一口飲んだ

「月子さん、私薔薇になりたいんです」
「…」月子は少し困った顔をした

「月子さん、薔薇はお好きですか?」
「ええ、もちろん好きです。綺麗ですよね」

もう一口、パネラは赤ワインを飲んだ

「どうして薔薇は、綺麗なのかわかりますか?」
「ごめんなさい、おかしな問いかけをして」パネラは恥ずかしそうに俯いた

「(薔薇は)…美しくて儚いからでしょうか?」月子は答えた
「やっぱり月子さんはわかっているわ」

「薔薇は限りがあるから美しいと思うの」
パネラはグラスに残っていた赤ワインを飲み干した

「明日、私は朝日を浴びようと思うの」
「そして私は薔薇になるの」

「ごちそうさま月子さん、とても美味しい赤ワインでした」
こぼれ落ちそうな目をしてパネラは言った
「ありがとう…」

(パネラさん…)
呼びかけようとしたが、パネラは夜の闇へ溶けていった

ご一読ありがとうございました

 

 

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第2話・微笑む男の子

2024年05月29日 | 月子のティーハウス(プロローグ・第1話~第5話)

月子のティーハウス
(moon child's tea house)

第2話 微笑む男の子

「微笑む男の子」は、幼い頃の友人をベースに作成いたしました
従って、ストーリーの中にご不快なキーワードがあるかもしれません
何卒ご容赦のほどお願い申し上げます

ゆったりとした日差しが、テーブルの周りを照らしている
時計は正午近くを指していた

月子がドアを振り返ると、男の子は黙ってティーハウスに入って来た

「いらっしゃい」月子が声をかけると、男の子は微笑んだ
本当は、ずっとずっと前から微笑んでいるようだ

「窓の近くのお席へ行く?」
男の子はうなずき、月子に椅子をひかれるとすぐに座った

(10歳に満たない男の子)月子は思った

男の子の服装は、白いシャツに半ズボン、靴は運動靴だった
それから瞳は半月のようであった

「ばやりすおれんじ」男の子は言った

デュラレクスのグラスに氷を入れ
月子はバヤリス・オレンジジュースを注いだ
それからストローを用意し、トレイに乗せて運んだ

「お待たせしました」

男の子はストローからオレンジジュースを飲んだ

「ぼくのなまえはまつざわたかし」
「せんせいはせんてんせいがんけんかすい(先天*眼瞼*垂)といってた」

「せんてんせいがんけんかすい?」
月子が繰り返すと、男の子は自分の瞳を指さした

「ようちえんをそつぎょうしてからはべつのがっこうへいった」
「でもずいぶんいじめられた、それからからだもよわかったからおやすみもした」

「とってもつらかったわね」月子は言った

「ようちえんのとき、となりにすわっていたともだちにおれいがいいたい」
「ありがとうって、そのともだちだけがぼくのとなりにいてくれたから」

「いいお友達だったのね」月子は頷きながら答えた

まつざわたかしくんも頷いた
「ここへくればだいじょうぶっていわれた」

「ええ大丈夫よ、かならず伝えるから」月子は答えた

まつざわたかしくんは、バヤリスオレンジを飲みほした
「ごちそうさま」

入って来た時と同じ様に
微笑みながら、まつざわたかしくんはドアへ向かった

そして小さな炎が消える様に「ふっ…」といなくなった

ご一読ありがとうございました

コメント (2)
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第1話・さくら

2024年05月01日 | 月子のティーハウス(プロローグ・第1話~第5話)

ご訪問ありがとうございます

月子のティーハウス
(moon child's tea house)

第1話 さくら

陽光が輝きを増す5月の朝
ティーハウスの前には、山吹の花が咲いている

エントランスを掃除するため、月子はドアを開けた
1匹のきじねこがいた

「入っていい?」きじねこが尋ねた
「ええ、どうぞ…」月子は答えた

きじねこはするすると入り、朝日のあたる窓辺に行った

ホウロウの深皿にミルクを入れ
バターココナッツと共に、月子は差し出した

「ありがとう」

きじねこはミルクを飲み、バターココナッツを食べた
(シャクシャク、シャクシャク)

きじねこは話し出した
「僕には名前がないんだ、僕は名前がほしい」

ガラスボウルに水を注ぎ、もう一度月子は運んであげた
「名前がないの?」月子は尋ねた

「僕は野原に捨てられた」
「それから網に入れられて眠ってしまった」

「目が覚めたら近くにいたの?」月子は話した
「…そう」

月子は、きじねこの耳を見ていた…
「さくらくんでどう?」月子は問いかけた

「うん、さくらがいい」
きじねこ(さくら)は、うれしそうだった

「ありがとう、それからごちそうさま」
ティーハウスを出ると、さくらは雑草の中に消えて行った



ご一読ありがとうございました

 

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