トーキング・マイノリティ

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軍縮問題 その①

2006-06-28 21:16:52 | 読書/欧米史
 平和運動家たちにとり、軍縮問題は最も関心のあるテーマだろう。だが、軍縮がいかに困難なものであるか、戦前の国際連盟での軍縮会議を描いた本の一部を抜粋したい。

「1932 年初め、ついに世界軍縮会議は開催されたが、それはひと月またひと月、一年また一年と種々様々な提案を審議したり、また却下したり無数の報告書を読み上げ たり、果てしのない議論を聴いたりして、いたずらに日を費やすばかりだった。その内に軍縮会議であるはずだったものが、反ってまるで軍備拡大会議のような 観を呈しだした。参加国のどの一国として、問題をより広い国際的観点から取り上げようという用意のある国はなかったのだから、結論が一つも出てこなかった のも当然だ。各国の主張する軍備縮小とは、自国は現状のまま勢力を保持しながら、他国には軍備を解体させ或いは縮小させようとすることに他ならなかったのだ。ほ とんど全ての国が自国本位の態度を取ったが、特にこの方面では日本とイギリスが群を抜いていて大きな障害となり、何らかの協定に達する道を塞いでいた…日 本の中国侵略に対するアメリカの反対は、イギリスが頑なに日本に友好的態度を保持していたために、かなりの程度に相殺された。

 様々な提 案がなされたなされた中で最も重要なものは、ソビエト・ロシア、アメリカ、フランスの三国から、それぞれ提出されたものであった。ロシアは軍備を全面的に 50%削減することを提案し、アメリカは三分の一縮減を示唆した。しかしイギリスは自国軍、特に海軍はもっぱら警察目的のために存在するのだから、これを削減することは出来ないと主張して、この両案に反対した…

  侵略者とは何か?これは難しい問題だった。およそ侵略者というものは、自衛のために行動しているのだと主張するのがしきたりであるからだ。満州における日 本にしても、アビシニアにおけるイタリアにしても、彼らは自ら侵略者であるとは認めなかった。(第一次)世界大戦では全ての国が敵国を指して侵略者呼ばわ りした。だから、もし侵略者に対して行動が取られるべきだとすれば、何らかの明瞭な正確な定義が必要だった。
 ロシアはこれについて一つの案を提出した。それによると、もし一国が国境を越えて他国に武装した軍隊を派遣し、或いは他国の海岸を封鎖した場合には、その国は侵略国となる、と言うのであった。大統領ルーズベルトや国際連盟に設けられた委員会も「侵略者」に同じような定義を下した。ソビエトの定義はロシアとその隣接諸国との不可侵条約の中で採択された。大国も小国も、フランスを含めて大多数の国々がこの定義に同意した…

 イギリスの軍縮提案はどこまでも、イギリスは軍縮するに及ばないが他国には軍縮が必要である、と言うことを基調として推し進められた。空からの爆撃に関しては誰もが完全禁止に賛成したが、イギリスはこれに「辺境地方における警察目的に使用されるものを除き」という条件をつけた。これによってイギリスはその帝国内では、欲するままに爆弾を落とすことが出来るわけだった。この条件は他国の受け入れるところとはならず、そのため禁止の提案全体が葬られてしまった…

 全ての軍縮の試みが失敗に帰した事実ほど、こんにちの国際政治の虚構と欺瞞性を証拠立てるものはない。誰もがこぞって平和を論じるが、実は戦争を準備している

※以上『父が子に語る世界歴史8巻-新たな戦争の地鳴り』みすず書房、J.ネルー著、から抜粋

  改めて現代に至っても軍縮問題は何一つ解決していない惨状だ。日本とイギリスが、中国とアメリカに入れ替わっただけである。ロシアの侵略国定義は真に正論 だが、侵略体験豊富なだけ説得力があり面白い。上記の軍縮会議後、全ての国で猛烈な勢いで再軍備が始まったのは書くまでもない。
その②に続く

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4 コメント

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自衛 (n1450)
2006-06-28 23:00:08
自衛目的の軍ならば良い?

はるか彼方から百基以上日本に向けられているテポドンは、麻生の言うところ「発射されても攻撃とみなさない」らしい。こんなもの詭弁もいいところで、要するに「アメリカ様、おねげえしますだ」と、そう言いたいらしい。



軍縮を提唱しだすのは決まって戦争が始まってから、もしくは始まりそうになってからであり、提唱先は相手国の「一体」となる国に相場が決まっている。

日本には「軍」が無いということになっているのでこんなことは馬耳東風だが、「軍」としての体を成しているのでアメリカ様や中国様の言い分を聞かざるを得ない。



早く!「脱 負け戦!」



言いたいことばかりですみません・・・。
警察目的 (mugi)
2006-06-29 21:26:26
>n1450さん

私が戦前の例を挙げたのは、いつの時代も「自衛」「警察目的」という名で軍拡が行われる事実を指摘したかったからです。

麻生外相の情けない答弁は、戦の出来ない日本の置かれた現状なのでしょうね。逆に日本が再軍備すると宣言できる状況ではないし、それへの警戒は中朝露のみかアメリカも同じでしょう。

軍縮を提唱するのが軍事大国の場合もありますが、こちらも自分たちは軍縮せず、仮想敵国への牽制が目的。
Unknown (牛蒡剣)
2021-12-09 22:56:10
>辺境地方における警察目的に使用されるものを除き」という条件をつけた

これ本当でして、英空軍は戦間期に「植民地爆撃機」という当時世界に類を見ない機体をわざわざ作成してました。当時の、日本を含む世界の軍事大国が、敵の戦闘機をかいくぐるスピードや強力な爆撃能力や防御装甲を追及して爆撃機を製造しているなか、低コストで輸送機にも使える(反乱鎮圧で派兵するため)低性能爆撃機を作ってます。皮肉ですが、この植民地爆撃機シリーズは全部インドの都市名からとったネーミングです。(例ボンベイ爆撃機)

まあこんなのにかまけていてなんと、軍事大国とガチで戦う重爆撃機の近代化が遅れて、当時の日本より単翼重爆撃機の実用化が遅れたくらいです。まあ
ナチスの台頭で一気に近代化するんですが。
牛蒡剣さんへ (mugi)
2021-12-10 22:34:27
「植民地爆撃機」という機体が制作されていたことは知りませんでした。ネーミングがまた皮肉というか……20世紀末ですが、これでは名称をボンベイからムンバイに変えるのは然でした。