トーキング・マイノリティ

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おばあちゃんのタトゥー/アルメニア哀史 その二

2012-06-26 21:40:31 | 音楽、TV、観劇

その一の続き
 モーセミディアン人への措置として躊躇う部下に下した命は興味深い。聖書からその個所を抜粋すると…
直ちに、子供たちのうち、男の子は皆、殺せ。男と寝て男を知っている女も皆、殺せ。女のうち、まだ男と寝ず、男を知らない娘は、あなたたちのために生かしておくがよい(民数記31章17~18節)。

 第一次世界大戦中、アルメニア人少女はモーセの時代と変わりない憂き目に遭ったことになる。これを以てトルコやイスラム圏の後進性や残虐性を挙げる向きもあるが、新約聖書にもイエスの物騒な言葉があるのだ。
わたしが来たのは、地上に火を投ずるためである。その火が既に燃えていたらと、どんなに願っていることか(ルカによる福音書12:49)。

 イスラムもイエスを預言者の一人として認めているが、上のイエスの言葉を最も実行した点ではキリスト教徒に勝る者はない。第二次世界大戦時のナチスの虐殺だけでトルコのアルメニア人虐殺を軽く上回る。ナチスに比べ日本では一般に知られていないが、クロアチアの民族主義組織ウスタシャについてコメントがあり、それには聖職者が加わっていたことが載っている。

第2次世界大戦中、クロアチアのカトリック系ファシスト団体のウスタシャの軍事組織・黒色軍団(従軍神父同行)は、正教の教会に逃げ込んだセルビア正教徒たち(ほとんどが老人と婦女子)にカトリックの聖水を無理やりかけて、一方的に従軍神父が洗礼を行い、その直後に正教徒たちを機関銃で皆殺しにしたことがあります。そして、「異端であった彼らは、死に直前に正しいクリスチャンとなり、天に召された。」と言い放ったのです。
 また、黒色軍団は、結婚式を挙げていた正教会を襲撃し、列席者を皆殺しにして、新郎新婦を生きたまま十字架に縛り付け、カトリックの神父が祝福した後、「新婚旅行に行かせてやる」と称して川に投げ込んだそうです。これらの出来事について報告を受けたナチス親衛隊保安部SDの担当者ですらも戦慄を覚えたそうです(2012-06-24(日)21:56 巨大虎猫)。

 キリスト教徒でもムスリムでもない私から言わせて貰えば、老若男女皆殺しにした前者よりも、一応“男を知らない娘”を生かしたトルコの方が「人道」に配慮したと言えるのではないか?ただ、意に染まぬ結婚を無理強いされるのと、若くして虐殺されるのではどちらがマシなのか、私には結論は出せない。
 いかに戦時でも民間人への虐殺行為は許されることではないし、古代も非戦闘員を殺すのは忍びないと思っていた様子が聖書からも伺える。尻込みする部下に激怒したモーセが発したのが先の民数記の言葉なのだ。こうしてみると、人類は紀元前13世紀から殆ど変っていないと言えるだろう。

不思議な、不思議な「アルメニア共和国」」というサイトがある。文字通りアルメニア滞在体験のある日本人によるHPで、とりわけ36章アルメニア人とは?は興味深い。冒頭から次の文章なのだ。
アルメニア人の国民性を紹介しよう。まず、アルメニア人は基本的に天然で変な人達だ。最初、冗談で頭がおかしい人みたいな事を言っているのかと思ったのだが、彼等の殆どは「素」でおかしいらしい。所謂、「論理的思考」が極度に欠落している。言動の支離滅裂さ加減もさることながら、普段の行動も意味不明だ…

 特に私の関心を引いた個所を抜粋したい。
アルメニア人は、アルメニア共和国は日本やEU、アメリカ等と全く対等な国だと勝手に思い込んでいる。世界の歴史を創造したのは、全てアルメニア人だと思っている。世界の経済を動かしているのも、アルメニア人だと思っている…
 アルメニア人は、外国人の有名人やお金持ちなら誰でも「アルメニア人」にしてしまう。「あー、彼もアルメニア人。彼女もアルメニア人!」と、こんな感じに。最初は僕も真に受けていたのだが、「ジョージ・ブッシュ合衆国大統領も、ビル・ゲイツも実はアルメニア人なんだよ」と 真顔で言われて、単に虚言癖がある人達だと分った。
 なので、アルメニア人が海外に行った時、外国人に「アルメニア?何処それ?」と言われると非常に狼狽する。「どうして我々の事を知らないのだ!そんな事が許されて良いのか?」と。そして、ある事無い事(殆どは無い事)を交えて必死にアルメニアについて説明を始める…

 まるで日本の隣国とそっくりと思った方も多いはず。他にもアルメニアと隣国の共通点は見られるが、サイト管理人も言うようにキリスト教国でもアルメニアは基本的に中東の文化圏に属しているのだ。家父長制に血族主義、自己主張の激しさなどトルコも同じだが、大帝国を築いたトルコに対し、古代ローマ時代から常に大国に翻弄され続けた歴史を持つ小国アルメニア。異様に高すぎるプライドも実績のなさに由来する劣等感の裏返しに思えてくる。戦時に虐殺事件があったにせよ、アルメニア人のこの気質ではさぞ脚色雑じりのドキュメンタリーを作りかねないだろう。

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