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動機はしみったれ―イラク人質事件

2007-06-01 21:26:31 | 世相(日本)
 先日、映画『バッシング』の記事に、立て続けにTBを2件頂いた。私とは見解が異なるにせよ、彼らのTBを拝読して、改めて4年前の4月に起きたイラク人質事件を考えさせられた。TBされたブロガーさんの書いたとおり、視点によって1つの事柄も人それぞれ印象が変わるという典型だろう。

 4 年前あの事件が起きた時、人質になった3人はネットで散々誹謗中傷されていた。2ちゃんねるなどで彼らは馬鹿三人組と謗られ、彼らの住所、電話番号、果て は自宅の位置を示す地図まで載せられていた。地図では丁寧にココと矢印まで付いていたから、他県の人間でも分かるようになっているところに、ネット社会の 恐ろしさを感じた。あの3人には私も共感を感じなかったが、これは行き過ぎだと思う。安全圏にいる者が、まるでストレス発散の如く叩いていた面はある。

 TB を送られた方もバッシングは不当と思われていたようだ。「彼らの行動を安全な立場から、哂うべきではない」はまっとうな正論である。元来3人は自分探しも あるにせよ人助けのためにイラクに行ったのであり、人質になるのは想定外だったろう。だが、心無い噂話を好むのが情けない凡人であり、私などがまさにその 一人だ。あの頃いかにも政府の御用学者然とした文化人が登場し、「自己責任」論を展開して人質たちの行動を批判していた。しかし、彼らの行動を一切何も言うな、という者の主張も疑問に感じる。誹謗中傷は問題だが、庶民の言論を封じたくて堪らないのはお上ばかりではない。

 TBのうち、1つはなかなかユニークな発想で書かれてあり、「「私達の税金を・・」なんてしみったれたことを言う前に、解放交渉すると判断をした政府を選んでいる、もしくは政府を変えられない無力な自分を責めるべきだ」とある。
 私にはこの考えに賛同も共感も覚えないが、人の考えは十人十色なのだ。日本には思想の自由がある。それでも彼らに無関係の多くの日本人が、何故怒ったのかその理由を明快に示している。要するにカネの問題なのだ。連中のせいで、多額の税金が使われた、と。彼らは間接的にせよ、日本の納税者に迷惑をかけたのは事実である。

  私が人質“擁護派”に不快を感じたのは、連中がいかに日本は異質の考えの人に非寛容か、自己責任論が特殊であるのかを世界に訴えた点だ。外国人特派員相手 に記者会見よりも、自己主張と弁護の場を作ったような印象が強い。早々中国やロシアも日本社会の対応を報道、殊に中国の報道は、この出来事でいかに日本人 は冷酷な性質を持っているのか論評したのを憶えている。私も中露社会は世間を騒がせた人物には日本より遥かに寛容な姿勢で臨むと思う。ロシアなら原潜クルスク沈没時、記者会見で安否を声高に訴えた乗組員の母に、背後から近付いた女が鎮静剤を注射して大人しくさせてくれるし、中共は言論を封じ込め、庶民の不安を煽る者には特別な施設に入れてくれるのだから。

 一部の者を除き人間はしみったれな本性を持っている。人質に無関係な日本人なら、冷たいことを言えば、彼らが首を切られようが知ったことではないの だ。それは彼らを持ち上げた一部マスコミも同じ。視聴率とお上批判の目的に利用したのであり、彼らが生きようが死のうが取り上げただろう。彼らは自己選択 で危険地域に行ったのだから、税金を投じてまで救う価値もない、とハッキリ言った者などいたのか?金の切れ目は縁の切れ目でもあるが、税金が投じられた一 市民には、時に悪罵も投げつけられる。

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6 コメント

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 (mugi)
2007-06-05 21:32:38
>mottonさん
WW2前のスペイン内戦の時、アジア諸国からも義勇兵が集まったのに、日本からはなかったと聞いたことがあります。
ずばり言えば、同胞が安全なら他国の戦いに巻き込まれたくないのが、日本人の本音でしょう。これが陸続きの他国なら、恩の売り買いで外交も成り立つのですが、日本人はその交渉が不得手なのは確か。

マスコミは散々小泉前首相をアメリカのポチと非難しましたが、ろくな自衛力もない日本には他に何が出来たでしょう。
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Re: 安全保障 (motton)
2007-06-05 10:55:59
> 日本人は他民族のために義勇軍として参加することはごく一部の例外を除いてなかったと思います。
そうなんですよね。日本には轡を並べた戦友がいません。
助けがいらないことや海外紛争に巻き込まれないのは幸せなことではあるのですが、少し淋しいですよね。皆無というわけでもないのですが、WWI や湾岸戦争が典型例ですが恩の売り方買い方が下手なのでお互い覚えてない面もありますし。
でも、小泉前首相は天才的でしたね。なにせアメリカとイラクの両方に恩を売ったのですから。
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安全保障 (mugi)
2007-06-04 21:40:13
>mottonさん
仰るとおり人質の家族が一時期盛んにTVに出て記者会見を行っていたので、バッシングに拍車を掛けたのです。バッシングが起きれば、さらに外国メディアに訴えたので、ますます一般の日本人からは背後に左派がいたと知られるようになりました。
香田証生さんのようにイラクで殺害された青年もいましたね。彼の家族もマスコミに登場せず、迷惑を掛けたと謝罪していたので、バッシングは受けませんでした。

それにしても、人質の殺害映像がネットで出回るのだから凄い時代です。実は私もアメリカ青年が殺害された映像をネットで見ています。
何度も「アッラー・アクバル」を唱えながら、犯人が小刀で首を切断する映像を見ていた私も悪趣味ですが。

日本人は安全保障に関して、シビアな計算をする性質があるとは、鋭い指摘ですね。
江戸時代に限らず地政学的に他国との交流に乏しかった歴史があるので、日本人は他民族のために義勇軍として参加することはごく一部の例外を除いてなかったと思います。
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家族 (motton)
2007-06-04 11:56:14
人質達自身より家族へのバッシングが強かったように思います。
ただし、郡山氏の母へのバッシングはあまり無かったように思います。
「迷惑をお掛けしてすみません」という言葉だけであとは皆を信じてじっと耐えているという日本人の母親の典型的な反応だったためです。
他の二人の家族の場合、子供(家族)の命を出汁に自らの主義主張を唱えているように見えたことがバッシングに決定的だったかと思います。
バックにいた左派や当初のマスコミの報道姿勢が如何に普通の日本人の心情と乖離していたかの証明で、北朝鮮による拉致被害者の家族が何年も門前払いをされながら国を信じ続けたのと対照的だったように思います。

もう一つは、自衛隊撤退を言ったことで他の国民の命をリスクにさらしたことです。
軍(自衛隊)の派兵は兵士の命のリスクを負うわけですが、派兵しない場合の現在と将来の国民の命のリスクと天秤にかけて判断するわけです。極論すれば、自衛隊撤退は他の国民にかわりに死ねというに等しい。
このあたりの安全保障に関しては、日本人は(本人は気づいていないけれども)冷酷なまでに計算高いのではないかと思います。
ただし一瞬で天秤が傾くので諸外国は面食らうわけですし、本人も後でよくわからなくなっているような気もします。
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しみったれブロガーの弁明 (mugi)
2007-06-02 20:30:09
こんばんは、Marsさん。

私も他のブロガーさんからTBを見て、何故バッシング騒動が起きたのかすっきりしました。
人道上の面から、警告を無視して危険地帯に行った連中は救出する必要なし、とまでは言えませんので、自己責任論が掲げられたのだと思います。政府もこの連中を救出しないと公言したら、大変なことになるのが分かっている。
ただ、本音が出るネット掲示板では、節税のため連中は殺害された方がよかった、とのカキコが結構ありました。

私自身がしみったれですから、ケチを批判される方は是非義捐金でも差し出してほしかったですね。まして、政府より無力な自分を責めるべきとの意見は本末転倒だと思います。このような者に限り、世の中知らずのくせに、日本社会の非寛容を槍玉に挙げ、「人道主義」マスコミに簡単に影響される。そして自分独自の考えを持っていると勘違い。

他人の口を封鎖している国の記者が日本のバッシングを批判していたのこそ、自分の行動は棚におき、他者を批判する典型ですね。これらの国なら、人質解放交渉などまずしない。逆に旧ソ連時代なら、相手組織を襲って自分たちも人質を取り、それで交換条件にしたほど。先進国ではこんな手段は取れません。
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無責任男の放言 (Mars)
2007-06-02 09:56:48
こんにちは、mugiさん。

政府や外務省の勧告に従わず、危険な国に行って、被害を受けるのであれば、やはり、「自己責任」としか思えませんね。日本に限った事ではないでしょうけど、自分の行動は棚におき、他者を批判するのは、無責任と取られても仕方ないのですが、そういう輩は、決して少なくないですね。

ただ、それでも、人質となった彼女らを救出しようと交渉した事は、決して間違いではなかったと思います。反対に、事情によって、邦人を救出する・しないと決める方が、怖いと思いますが。
(実際に、「自己責任」だからといって、人質を無視したら、それはそれで、非難するでしょうね。)

多額の税金を使ったのには、確かに無駄な部分もあるでと思いますし、そうでないと思う所もあります。ただ、そんな原因を作ったのですから、悪口を言われても、仕方が無いように思えます。
(ま、だからといって、個人情報まで晒す事は、かなり行き過ぎていると思いますが。)

完全な自由な言論など、人間社会では到底無理だと思いますし、根拠も無いのに、他人を貶めるような言論を許してもよい、とも思えません。
それでも、他人の口まで封鎖しようとする事は、到底、許されざる事だと思いますし、そんな不自由な国に、住みたくはありません。

ブロガー様が、ブログに書く内容には、もちろん「自己責任」もあるでしょうし、それにコメントを書き込む者にも、「自己責任」はあるでしょう。といいつつも、私のような無責任な輩は、少なくないでしょうね。
(まぁ、マスゴミや自称市民団体など、他人に強制しても、自己の言論に対する責任を取らないものも、少なくないですが、、、。)
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