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トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

ティムール帝国 その①

2019-08-11 22:10:08 | 読書/東アジア・他史

 世界史嫌いの子供さえチンギス・ハンを知っているが、ティムールは世界史好きの大人すら一般に知られざる英雄だろう。特に日本ではモンゴル帝国と違いティムール帝国は全く関わりがなかったため、関心を持つ方もかなり少ないし、私もその1人だった。先日、行き付けの図書館に『ティムール帝国』(川口琢司 著、講談社選書メチエ570)があったので借りて読んでみた。以下は裏表紙の紹介。

「チンギス・ハンは破壊し、ティムールは建設した」――。
 一四世紀から一五世紀にかけて、中央ユーラシアの広大な領域を統合した大帝国がティムール帝国である。現世の楽園とも言える庭園(バーグ)を数多く建設し、青に彩られた帝都サマルカンドとその周辺に高度な文化を花開かせた。インド・ムガル帝国にもつながるこの帝国はいかにして繁栄したのか。マムルーク朝オスマン帝国など西アジアの敵対勢力をも打ち破った創始者ティムールとその後継者たちの知られざる実像に迫る。

 そして腰帯のコピーにはこうある。
この帝国を知らなければ、世界史はわからない チンギス・ハンと並ぶ偉大な英雄はたぐい稀な軍事・土木建築・外交の才覚で中央ユーラシアに大帝国を築き上げた

 本書は「はじめに サマルカンド・ブルーの謎」で書き出され、サマルカンド名所のレギスタン広場ビビ・ハヌム・モスクの写真が載っている。モノクロで見ただけでも美しいし、この古都は目を奪われるような青の建造物が多いため「青の都」と呼ばれている。その理由はティムールが青を好んだからという。
 以上の様な宣伝を見ただけで本書への期待が高まるし、稀代の英雄なのでさぞ面白いだろう……と予想した。しかし、読了後は期待外れだった。これは私の中央ユーラシアやティムール帝国への無知だけではなく、アマゾンの4件の書評でもイマイチだったので安心させられた。それには軍事について触れられていないことが挙げられ、そのひとつ「サーヒブ・キラーン」さんの「軍事に関しては期待出来ない 」を引用する。

優れた軍事手腕がまずあってこそのティムール帝国だがそのことに関してこの本では触れられていない。片手落ち感が非常に強い。その他の面では優れているのだろうが、右腕がバッサリ叩き落されたような感じである。乱世の雄を取り上げる力が無いと評価せざるを得ない。
 著者が軍事アレルギーなのか、属する派閥がそうなのか、単純に勉強不足で書けなかったのか、資料が乏しいのか、締め切りが近かったのかは知らないが

 あとがきでも著者はこう述べている。
この本を書き終えての感想なのだが、一つの国家や王朝の創始者を描くというのは、ある意味で二代目や三代目の人物を描くよりもずっとむずかしいと思う(略)王朝や国家の創始者が権力に昇りつめるまでの話は、たいていは立身出世の苦労話であり、さらに、さまざまな才能・カリスマ性・並外れた努力などをバネに人望・地位を高めていく話など、波乱万丈で、読者をわくわくさせるところがある。
 ところが、その創始者が権力者となって、領土の勢力圏を拡大していく段になると、軍事活動の話が中心になるためか、途端に単調になりがちである。文才のある人なら、そんなことなど気にもしないだろうが、私は戦いの記述が大の苦手である。そのためもあってか、本書では遠征や戦の記述は最小限にして遠征の動機や原因の解明に重点を置いている…

 どおりで面白味が感じられなかったのだ。本書を読んだ方の大半は稀代の名将だったティムールの闘いぶりに期待していたはず。私の様な軍事オンチさえ戦記は面白いと思うほどだし、まして男性読者ならティムールの戦いの記述に期待していたと思う。戦いの記述が大の苦手と述べる作者だが、戦の描写の無い武人の伝記ならば美術面に触れず画家を描くのと同じである。
 私的に密かに期待していたのが、オスマン帝国軍とティムール軍が激突したアンカラの戦い(1402年)。もちろん本書でも取り上げられているが、戦の原因や背景が記述されているだけで、中東史上有名な戦でも簡単な扱いなのだ。

 敗れたオスマン帝国の皇帝バヤズィト1世は“雷帝”の異名を持つほど勇猛だったが、24歳年長のティムールには到底敵わなかった。バヤズィトは捕虜となり、8か月の捕虜生活の末に憤死した。
 この敗戦で一時的には壊滅的な状況に陥ったオスマン帝国はやがて復興、飛躍的な発展を迎え、20世紀前半まで存続する。対照的にティムール帝国はこの戦から105年後に滅亡している。150年も持たない短命の帝国だった。
その②に続く

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鳳山)
2019-08-11 23:25:28
ティムールに関する本は何冊も読んでいますが、帯に短し襷に長しでなかなか満足のいく本に巡り合っていません。ご紹介の本も確か持っていたと思います。

結局一番良かったのは山川世界各国史「中央アジア史」だったような気がします(笑)。
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Unknown (牛蒡剣)
2019-08-12 21:56:35
ティームール帝国は短命なので版図はでかくても世界史の教科書でもちょつとで終わりですからねえ。

ティームール軍ですがモンゴル系ゆえ騎兵戦術
に長けていたイメージでしたが軍事的な解説
を読むと工兵の力量が高く即興で築城、攻城塔
火砲 投石器を作ってしまうとのこと。

騎兵を使い情報を集め、軽く敵とあって偽装
退却。追撃を誘い任意の地点に急増した頑強な陣地の正面に引きずり出し、防御力で粉砕するスタイルが必勝パターンだったそうです。
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鳳山さんへ (mugi)
2019-08-12 22:25:54
 何冊もティムールに関する本を読まれていたとはさすがです。しかし、一番良かったのが山川世界各国史だったとは、、、

 このことから日本ではティムールについて研究が進んでおらず、まだまだマイナーな英雄なのでしょう。
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牛蒡剣さんへ (mugi)
2019-08-13 23:08:59
 中東諸国の歴史教科書なら大きく扱っているでしょうけど、全く関わりの無い日本ではどうしても“ちょっと”で済ませるのは仕方ありませんよね。

 アンカラの戦いでティームール軍には象軍もあったとされていることがwikiに載っています。一方オスマン軍は歩兵中心。欧州軍を完膚なきまでに叩きのめしても、ティムールには通用しませんでした。

 それにしてもティームール軍は即興で築城、攻城塔、火砲、投石器まで作っていたことは知りませんでした。この話は本書に載っていません。戦術・戦略面だけではなく、陰で外交戦も展開しており、さすが稀代の英雄です。
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