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プーチンに肩入れする者たち その一

2022-04-24 21:30:14 | 世相(日本)

 今年2月のロシアのウクライナ侵攻以前から、左派のみならず保守系日本人にもプーチンに肩入れする人達がいた。元からロシアシンパの多い前者ならプーチンを対米の盟主の如く仰ぐのは当然の流れだし、そんな者は拙ブログにも現れた。
 例えば2015年に書込みしてきた根保孝栄・石塚邦男なる自称苫小牧市在住のフリージャーナリストだが、「ロシアの歴史に“民族の本源性”を探る~プロローグ」というブログ記事に以下のコメントをしていた。

ロシアの特異な民族共同体の組成解明することで、欧米の金融資本主義支配の価値観に幕引きできる路をさぐれるかもしれない・・・という幻想すら沸いてきますね」(2014年8月8日)
ウクライナでのプーチンのあり方はアメリカの金融資本に対する防御姿勢を示すものと分析することは正しい観方でしょう」(2014年9月23日)
ロシアと日本がアメリカの金融資本主義の牙城に抵抗する真の勢力か・・」(2014年10月11日)

 苦笑されられたのは以下のコメント。
ロシアの多様な精神文化は、特筆すべきものでしょう。西洋・東洋・イスラムを包含した混成精神文化を受容した他民族国家であるのでしょう」(2014年7月30日)
北方領土の返還具体的になってます。北海道苫小牧市に住んでますので、大いに期待したいです」(2019年1月3日)

 ロシアの多様な精神文化?コーカサス戦争だけでもエスニック・クレンジングの先駆けだったし、2019年はじめになっても北方領土の返還を夢想していた有様。元から「ロシア文学に興味を持ってます。誰よりもドストエフスキー。トルストイ、ツルゲーネフ・・偉大な民族ですね」(2014年8月1日)というほどなので、相当なロシア贔屓らしい。

 右派や保守系にもプーチンに肩入れする人達が結構いた。おそらくプーチンは保守やナショナリストと思われており、私も何となくそんなイメージがあった。プーチンは今や欧米メディアが無条件に性的少数派LGTBを尊重する姿勢を真っ向から否定、同性愛者を処罰するのに密かに快哉した者も一部いただろう。
 プーチン支持者ならずとも、性的少数派やそのシンパが我が物顔で社会批判しているのを不快に思っている人は少なくないはず。欧米人右派にもプーチンに好意を寄せる者もいたようで、伝統的家族観を重んじる方には悪い気はしなかったと思う。

 もちろんプーチンも正論を吐くことはあったが、私は彼に好感を感じたことは全くない。先ずもってあの目つきが嫌いだった。私の第一印象は戦争映画に登場する敵役のナチ将校。友人にそれを話したら、彼女はこう言っていた。
「それ、言えてるね~~ あの爬虫類みたいな冷たい目で拷問や人殺しを楽しんでいそう」
 英国人作家F.フォーサイス最新作『ザ・フォックス』にも、プーチンは常に「冷たい目をした小柄な男」と表現されていて、英国人から見ても冷たい目と感じていたようだ。

 プーチンを批判したロシアのジャーナリストや野党政治家は幾人も不可解な死に方をしており、あの目つきに相応しい陰険な独裁者としか思えなかった。面が悪いのや頭髪が薄いのは仕方ない。しかし、あの目つきだけで信用できないと感じたし、歴女オバサンの第一印象は結構当たっていたようだ。
 いかに左派文化人がソ連やロシアを持ち上げても、日本人には根強い嫌露感情があったのだ。喜多野土竜氏は3月9日のブログ記事で、「サイレントマジョリティ嫌露」「日本人の草の根嫌ロシア感情」という表現を使って説明している。その根源はシベリア抑留にあるのだ。喜多野氏のブログから一部引用したい。

北朝鮮の拉致問題と同じで、マスコミが平和勢力と持ち上げたソビエト連邦の悪行を、大っぴらに語ることはそう多くはなかったわけで。でもいろんな家庭で、父親や祖父母の悲劇として、ここら辺は口伝で語られていた部分です。
 それは、朝鮮半島にいた70万人から90万人と推定される日本人の、地獄の体験も同じです。マスコミや人権活動家が表面上は黙らせることができたとしても、かえってその恨みは深くどす黒く心に刻まれるものです。

 プーチン大統領の暴挙によって、これまで日本人の心の奥深くにしまわれ、あまり大っぴらに語られることがなかったソビエト連邦の悪事の数々が、普通に語られるようになりましたし。
 Twitter でも、実は父が・祖父がシベリア抑留帰りで……と語る人も何人も見ました。自分も、あまりの飢えに、森林伐採作業での昆虫の幼虫を発見すると嬉しかったとか、排泄物の中の未消化の丨高粱《コーリャン》を丁寧に洗って食べたとか。悲惨な話を伝え聞いています……

 実は私の母の叔父(母の父の弟)も国策で満洲に行き、シベリア抑留こそならなかったが、満洲に侵攻したロシア兵が家の周辺を銃を持ってうろついていたという。私には大叔父に当たる人だが、シベリア抑留にならず無事に帰国出来たのは幸いだった。歴史に全く関心のない昭和一桁生まれの母は、「露助が鉄砲っこ持って家の周りをうろついていた…」と何度も話してた。
 私の青森出身の同僚男性の父もシベリア抑留体験者だった。同僚の話では決して父はそれを語らなかったという。今は何故か削除されているが、3月初めにたまたま見かけたツイートには数多くのレスが寄せられ、家族の悲惨極まるシベリア抑留体験が語られている。
その二に続く

◆関連記事:「ザ・フォックス

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4 コメント

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報じられないソ連の悪行 (IT)
2022-04-25 03:20:36
引用されている通り、北朝鮮の拉致問題やソビエト連邦の悪行を日本のマスメディアが事実上隠蔽してきたのはその通りだと思います。悲しいことにそれは、軍部なり新体制運動なりに迎合しまくっていた戦前の行動の裏返しにすぎず、結局、事実に対する不誠実という意味では何も変わっていないんですよね。

関連して、戦後のマスメディアなり文壇の空気を物語る話題をひとつ提供したいと思います。藤原ていさんの『流れる星は生きている』は、幼い子を3名連れて命からがら満州から引き上げてきた母子の手記として戦後まもなく大ベストセラーになった本で、よくご存じのことと思います。その中で、ソ連支配地域での苦しい生活の中で気が狂った若い奥さんの話が出てきます。井戸を汚したりするので柱に縛り付けざるを得ず手を焼いた、しかし帰国が決まるとケロっと発狂状態が収まった、という趣旨です。

精神医学的にそういうことがあるのかどうか不思議に思っていたのですが、その後、続編と言うべき同氏の『旅路』(中公文庫)
https://amzn.to/36GE5Kz
を読んで謎が解けました。その箇所はおそらく、出版社からの助言で書き換えたのでしょう。『旅路』の方にあるのは、おおむね大枠は似ているのですが、夫をシベリア送りにされた新婚早々の若い奥さんがソ連兵にさらわれ、1週間行方不明になった後帰ってきた、という話です(第三章 放浪生活・「眠れない夜が続く」)。生活苦の中でも、夫が無事に帰ってくることを少しも疑うことなく、帰国後の新婚生活を楽しみにしていたその奥さんの心の傷を思うと言葉もありません。その若妻を柱に縛り付けざるをえなくなった経緯の陰惨さはもう救いようがないものがあります。

この大ベストセラーからしてそうなのですから、いかに彼らが事実を捻じ曲げ、日本をミスリードしてきたか。mugiさんのお詳しいイスラム教がらみも特にそうですし、なぜまともな教育を受けたはずの大人が、なぜここまで事実に不誠実になれるのでしょうか。私にはわかりません。
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独裁者の類型 (motton)
2022-04-25 11:53:20
為政者(特に独裁者)にはいくつかの類型があります。

1. 自身と国家を同一視するため、私利私欲=国益なので、国家・国民のために行動する者。(例えば、トルコのケマル)
2. 国益を失おうとも(多数の国民が死のうと)、私利私欲のために行動する者。(毛沢東やスターリンだが彼らはまだマシかもしれない)
3.(2に準じるが)私利私欲が思想面に偏っていて狂っているように見える者。(ポルポトとか)

1 は敵であっても(国益を考えて政治家を選ぶ我々と)論理は同じなので、国家間での合理的な交渉ができます。
2 は国家間では齟齬が出ますが、個人的関係では合理的な交渉ができます。
3 はどうしようもない。韓国は 2(2 の中でも最悪の部類)から 3 に移行中。

プーチンは 1 だと思われていたので、以前は人気はあったのです。他国にとっては厄災でしかないチンギス・ハーンやナポレオンなどの「英雄」が人気あるのと同じ。
支配地域における倫理的な善悪(反体制派の弾圧など)は、「他国としては基本的にはどうでもいい」のです。ただし、それが国益にならないのなら 2 に堕ちるわけです。

しかし、クリミア併合から今回の侵略を見て、結局、プーチンもスターリンと同じじゃね、って思った人は多いのではと思います。
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Re:報じられないソ連の悪行 (mugi)
2022-04-25 21:32:18
>ITさん、

 私がしばしばマスコミ業界人を「ペンを持った男娼」と呼ぶのは、北朝鮮の拉致問題やソ連邦の悪行のみならず中共や韓国のそれを隠蔽する体質からです。一方米国のそれは結構書いていますが、戦後まもなくのGHQ支配時代は提灯記事を書いていた。
 不誠実のような生易しいレベルではなく、デマゴギー集団に近いような。そのくせ“社会の木鐸”を自認するから始末が悪い。

 藤原ていさんの『流れる星は生きている』『旅路』は未読なので、発狂のためにで柱に縛り付けざるを得なかった若妻の話は初めて知りました。これだけでも悲惨ですが、帰国が決まるとケロっと発狂状態が収まったというのも驚きます。震災よりも酷い極限状態は想像もつきません。

 シベリア抑留よりも知られていないのが、朝鮮引き上げ時の地獄絵図ですよね。これまた未読ですが、『竹林はるか遠く―日本人少女ヨーコの戦争体験記』はベストセラーになりました。こちらも特亜に忖度するマスコミはガン無視しています。考えてみると中国残留孤児はいても、朝鮮残留孤児の話は聞きません。

 イスラム世界や日本のイスラム学界の実態を暴いた飯山陽先生は学界ではつま弾き状態ですが、幸いなことに著書は売れており、ツイッターでも人気があります。尤もAmazonレビューでは飯山先生の著書を未読なのが明らかな者が批判しており、ネットレビューも全面信用できませんよ。

>>なぜまともな教育を受けたはずの大人が、なぜここまで事実に不誠実になれるのでしょうか。

 私的に理由は二つあると思います。先ず金銭や利権絡み。虚偽を書いた方が儲かるし属する組織での地位が保証されるから。もう一つは「宗教」。嘘も方便なので、狂ったイデオロギーのためには平気で事実を封殺、不誠実に徹するのです。
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Re:独裁者の類型 (mugi)
2022-04-25 21:34:21
>motton さん、

 1.のケマルは誕生したばかりのソ連を認め、外交関係を築いています。尤も彼自身は生涯共産主義に懐疑的で、このような国家はロシア帝国以上の官僚主義に陥り、国を疲弊させてしまうだろうと見ていました。この予見は1920年代のものです。

 強権体制でもプーチンは清廉な指導者と思われていたし、ソ連邦崩壊後のロシアに経済力と秩序をもたらしました。現に豊富な資源でBRICSの一員となったことは、ロシア人の誇りを取り戻しました。
 20年余りも君臨してきたプーチンは、これまでの成功体験から今回の侵略に踏み切ったのかもしれません。

>>結局、プーチンもスターリンと同じじゃね、って思った人は多いのではと思います。

 私もそのような人が多いとは思いますが、未だにプーチンに肩入れしている者はネットで見ます。工作員ばかりではなく、病的な陰謀論者。この類は何があってもDSやユダヤの陰謀と結論付けます。
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