この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#390 カラヤン

2008年02月03日 | 随想
私の所属しているシニアシティズン湘南(略称SCS)の会長のKさんは、藤沢駅のすぐ近くにオフィスを持っておられる。オフィスと言ってもそこで営業活動をしておられるわけではない。家にいる代わりに昼間はそこに「出勤」されて、好きなことをしておられるとのことである。私も何度かお邪魔したことがある。

そういうことなので、秘書などいるはずはないのだが、冗談ばかり言っている私は、絶対に美人秘書がいるに違いないといつもからかっている。会員に隠して言わないだけだ、などと言って。

今日は日曜日で、しかも雪が降っているのに、Kさんは遊行寺の近くのご自宅から、長靴をはいて「出勤」されたようである。

会員全員に送られたEメールを見ると、今日はオフィスで「第9」を聞いてられるとか。机の上には他の会員のIさんがが持ってきたカラヤン指揮の「未完成交響曲」も置いているとのこと。

自宅で雪を見ながら昔のことを思い出していた私はカラヤンと聞いて、半世紀前のことを思い出していた。

落語のような話である。

学生時代のことである。

私が長い間憧れていた女性が私の願いに応じて、音楽会に一緒に行ってくれることになったのである。

ショスタコビッチのオラトリオ「森の歌」である。交響楽団も合唱もロシアから来た人達だと思うのだが、今は記憶は定かではない。

場所は昔の代々木体育館だったと思う。

私達は新宿御苑を散歩した後、会場の代々木体育館に向かった。

彼女がカラヤンの演奏会に行ったことを話しはじめた。カラヤンはその前年にベルリン・フィルを連れて来日したらしい。

彼女の女友達が「カラヤンを見て感動しない女は女ではない。」と言ったそうである。
そして彼女は「私も女だったわ。」と私に言った。
その音楽会の観客の席の配置はどうなっていたのかわからないが、彼女はカラヤン
の顔をまともに見る位置にいたそうである。

彼女はひどく感動したというのである。

それを聞いて私は何となく複雑な気持になった。

そして、心の中でちょっと考えた。

音楽に感動したというのではなく、カラヤンの顔や姿に感動したというのはどういうものか、というのが私の「理屈」であった。この「理屈」を武器に反発を覚えたのだが、私はこのような私の感情の動きは顔には出さなかった。

ところが、私の「理屈」は、明らかに無理に作った「理屈」であった。
実のところは、彼女が他の男性に感動したといったのが気になったのだろう。
そういえば、カラヤンも男性の一人である。


我ながらお笑いである。

それほど私が彼女に一生懸命だったということだろう。

彼女がこのように私が「複雑」な気持になるようなことを言うのは珍しいことだった。彼女はいつも思いやりがあり、発言のすみずみまでそれが行き届いていた。私が不愉快に思うようなことはただの一度も言ったことがなかった。発言で反省するのはいつも私の方であった。

素晴らしい美貌の持ち主というだけでなく、全ての点でこのような完璧な人が世の中によくいるものだといつも私は感心していた。

世に言う、惚れた弱みで何でも素晴らしく見えたというのではないのである。当時から長い年月が経って客観的に見れるようになった今振り返って見ても全くそうなのである。

時々、彼女の完璧さがくやしくて、私の方から理由のない議論をふっかけては、いつも恥ずかしい思いをするのは私の方であった。

全て、半世紀も前の所謂青春真っただ中の頃の遠い昔の話である。

SCSのKさんには、私のブログ「ハイネ詩集」「ヘッセ詩集」で「ご馳走様」というコメントを頂いたが、またそのような感じを持たれるかもしれない。

夕方SCSのKさんのオフィスから全会員にEメールを発信された。

朝「オフィス」で聞いたニューヨークフィルのベートーベンの「第9交響曲合唱付き」は音がだめだったので、レコード店に行って今度は、カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニーの「ベートーベンの「第9交響曲 合唱付」」を買って来た。乞うご期待。 とのこと。(Kさんは今、LP版のレコードに夢中になっているのである。)

SCS幹部会員のKIさんは、第9のスコアも持って参加するとのこと。
私もKさんのオフィスに行って、カラヤン指揮の「第9」と「未完成」を聞かせてもらって来ようと思う。

ついでに、もうひとつ、Kさんに「ご馳走様」といわれそうなことである。

私の彼女との最初のデートは、昔、誰もがそうであったように、名曲喫茶でだった。「らんぶる」であったのか、「田園」であったのか。

帰る予定の時間になったので、私から立ちあがると彼女も席を立ったのだが、出口に歩きながら彼女は私に、「私の好きなベートベンの時にどうして帰るとおっしゃたの?」といたずらっぽく笑いながら私に言ったものである。私は恐縮したが、彼女が本気で怒って言っているのではないのがわかるのでほっとしながら、私をからかっている彼女に親しみを感じたものである。

どうということではないのだが、今でも私はそのことを覚えているのである。。

Kさんのカラヤンの話から、私は雪を見ながらいろいろと昔のことを思い出したのである。                 


「彼女は今、どこでどうしているのだろう。」
                               (おわり)

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 画像:筆者撮影
 















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