この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#15 「ハイネ詩集」、「ヘッセ詩集」(思い出)

2005年02月07日 | ドイツ文学

何の変哲もない文庫本のこの詩集は私が死んだとたんに、ただのごみとなって捨てられてしまうのだろう。しかしこのヘッセ詩集とハイネ詩集は私にとっては宝物なのだ。

運命(Schicksal)

私たちは、子どもたちのするように、
怒って、わきまえもなく別れ、
愚かなはにかみにとらえられて
互いに避けあった。

悔いて待つうちに
幾年も過ぎた。
私たちの青春の園に
通ずる道はもうない。

(ヘルマン・ヘッセ)(高橋健二訳)

学生時代に私は1年間ほど遠くからある女性をあこがれつづけた。
そのことを創作(小説)にして学内の懸賞小説に応募もした。
しかし相手に自分の存在を知らせる勇気はなかった。

1年以上たって何とか彼女の住所を調べて思い切って彼女に長い手紙を何度か書いた。
やがて彼女から返事が来た。長い手紙だった。私は狂喜した。
自分にはすでに恋人がいるがそれを承知なら時々お会いしましょう、と彼女は言っていた。
 
私は何度か彼女と会って話しをする機会を持った。
それは私にとって至福の時間だった。
彼女の顔、しぐさ、彼女の話したことを私は次に彼女と会う機会があるまで
毎日、毎日反芻してすごした。それだけで私は幸せだった。

彼女が病気になって長く入院した。
私は病院に見舞いに行った。
私は前年に彼女のことで書いた創作の原稿とこの文庫本の「ハイネ詩集」と「ヘッセ詩集」
を持って行った。この2つの詩集には私はあちこちに多くの傍線の書き込みをしていた。
もし気が向いたら貴女も書き込みをしてほしいと彼女に言ってこの詩集も置いて帰った。

彼女はこの詩集に書き込みはしてくれなかった。そのかわりに、きれいに切った小さな紙片を
いくつかのページにはさんで返してくれた。私はその詩を何度も読んだが
彼女がどういう意味でその詩に紙片をはさんだのかを聞く勇気がなかった。

昔の話だ。

そしてこの2冊の本が私の本棚のすみに彼女のつけてくれた紙片がはさまったままで
何十年もひっそりと住み続けている。

彼女は今はどこでどうしているのだろう。
                                 (おわり)
                                                                      

ハイネ詩集 片山敏彦訳 新潮文庫 昭和26年(1951年)初版発行昭和33年(1958年)18刷(私の購入時期不明)
ヘッセ詩集 高橋健二訳 新潮文庫 昭和25年(1950年)発行 昭和32年(1957年)
17刷  (私は1957年10月17日に購入した。)


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4 コメント

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ごちそうさま (scs-kondou1717)
2005-02-08 08:35:13
#15拝見



ロマンチスト佐藤の面目躍如たる、青いレモンの味がしそうな若々しいお話でした、奥様のことでは無いとすれば、奥様の目を盗んでハイネの詩集のいつもの所を紙切れを落とさないように気を付けながら開いて読んでいる佐藤さんが目に浮かぶようです
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#15「ハイネ詩集」「ヘッセ詩集」 (佐藤牧夫)
2005-02-08 23:34:46
kondouさん

コメント有難うございました。



「実を言うと彼女とは家内のことです。」というと全て丸くおさまりそうですね。

そういうことにしましょう。いまさらもめごとは嫌でうから。



「紙切れ」

そうなんです。昨日も気がついたら紙片が1枚知らない間に床に落ちていました。どこのページにあった紙片かわからなくなってしまいました。残念といおうか何といおうか。写真を見てお気づきかもしれませんが、セロハンの紙片なのです。



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素敵な思い出ですね♪~ (エリーザベト)
2005-11-09 02:10:30
偶然ですが私もその2巻だけ今持っています。

でも、そんなロマンティックな思い出は残念ながら私には無いのですが。その女性は元気で退院されたでしょうか。私は、団塊の世代・全共闘世代ですが、あの頃ずっとヘッセやハイネ、ゲーテに憧れてました。ランボーや島崎藤村の詩も読んだりしていたのを思い出します。

大切な青春の思い出、どうぞいつまでも胸の中にそっとしまっておいて下さい。
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思い出 (佐藤元則)
2006-01-13 12:35:59
エリーザベトさん

コメント頂き有難うございました。

うっかりしてこのようなコメントを頂いていたのを今まで気がついておりませんでした。



この女性は元気に退院されました。

今でもお元気でおられるようです。



この女性がいつまでも元気で幸せに過ごされるよう、私は遠くから祈っております。























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