この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#121 トルストイ著「クロイツエル・ソナタ」

2005年06月17日 | ロシア文学
私はこの作品を私の「懐かしい本」として書くわけには行かない。私はこの本をちゃんと読んでいない。しかしこの本は私の本棚の中に40年以上居続けている。今まで何度か読み始めたことがあったが、それほど興味を持てずにそのままになっていた。しかし問題作であるということは聞いていたので、いつかは読もうと思っていた。ページの間にはさまっていた手紙を見ると、大学の終わりのころに買ったもののようだ。それも古本で買っている。

訳者の米川正夫氏の巻末の解題によれば、ロマン・ロランは、この作品「クロイツエル・ソナタ」をトルストイの作中第一のものだと言ったとのことである。「あながち奇を衒った言葉とばかり言えないかもしれない。」と米川正夫氏は解説している。

また訳者の解説を引用してしまうが訳者はこう書いている。
「嫉妬のために不貞の妻を殺した不幸な男の告白を筋として、現代社会の男女関係、結婚問題、性欲問題を痛烈骨をえぐるが如き筆をもって、縦横無尽、完膚なきままに解剖し批判したものである。この小説が社会に及ぼした反響は非常なもので賛嘆、驚愕、畏怖、罵詈、呪詛の声があらゆる方面に入り混じれ合いつつ果てしなく波紋を広げて行った・・・・・」

ロシアの検閲で現存の社会制度、家族制度の基礎を脅かすものとして発禁、押収処分にされたとのことである。そしてトルストイ夫人がロシア皇帝に嘆願の結果、全集以外には単独発行しないとの条件つきで出版許可を得たものだそうである。時にトルストイは63歳。

まだよく読んでいない私も、「この男の告白」という形をとった筆致の凄さに驚いている。また60歳以上のトルストイがこのような作品に取り組んだのも驚きである。4年間推敲を重ねた結果のものだという。

まだ私が何かを述べ得る段階ではないが、これだけ長く私の本棚にあったこの本は「この懐かしき本たち」の一冊として書き留めておかないと、この本に苦情を言われそうだ。

* 画像:トルストイ著「クロイツエル・ソナタ」米川正夫訳 岩波文庫 昭和3年初版
 昭和26年20刷発行 全198ページ 定価80円

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