ネオンまたたく那珂川のほとりをしばし歩いて、中洲の人形小路にやってきました。今回博多で呑むならここだと決めていた店があります。教祖おすすめの「一富」です。
この店に始めて立ち寄ったのは二年前、クリスマスを五島で過ごした翌日のことです。福江から四時間以上かかる寄港便で長崎に戻り、「安楽子」で軽く一杯引っかけた後、博多に移動し中洲で呑んだとき、立ち寄った中の一軒がここでした。古い呑み屋小路の情緒と、店主の客あしらいが心地よく、以後福岡へ寄るたび再訪の機会をうかがいながらも、定休日や臨時休業に重なるなどして、これまで振られ続けてきた次第です。今回待望の再訪を果たすと、店内には先客が一人のみ。聖夜の中洲で一人酒を酌むには好都合です。
大雑把に言うなら、もちろん「居酒屋」ということになるのでしょう。しかし、店の造りにしても仕事ぶりにしても、さすがは老舗と感じさせるものがこの店にはあります。まず、暖簾をくぐって右手にある、分厚い白木のL字カウンターに年季が入っています。その中に据え付けられた、カウンターに負けず劣らず分厚く立派な俎板が店主の仕事場です。背後には、氷を使ったこれまた古めかしい冷蔵庫が鎮座しており、整然と並んだ調理器具など、カウンター回りを眺めるだけでも楽しいものがあります。この店内からして、仕事ぶりも推して知るべし。突き出しには、薄切り肉と千切りの牛蒡を使ったすまし汁が出てきました。突き出しに温かいものを出す店というのは、往々にして外れがありません。酒は錫のちろりで湯煎し、袴を履いた細身の徳利に注ぐといった具合に、調理、器、盛り付けの一つ一つに丁寧さが感じられます。
品書きは鯖、鯵、鰯の光り物を中心に、煮魚、焼魚、揚物、一品、鍋物、食事という組み立てです。店主が一人で営む店だけに、それほど豊富なわけではありません。だからといって選択肢に困るということもなく、一人酒には好適。まず選んだ鯖の刺身には、山葵とともに青唐辛子が添えられてきました。次いで選んだ千里鍋は、鰯をぶつ切りにした小鍋です。これらで酒を二本と少し飲み干し、残った出汁を雑炊に仕立ててもらえば、一軒目としては必要にして十分といったところでしょう。
それにしても、今回改めて思うのは、店主が無類の話好きだということです。これほど間断なく喋るのは、自分の知る限り会津若松「麦とろ」の店主と、三日前に訪ねた長崎「桃若」の店主夫妻に若主人だけです。そのどれもが、決して騒々しいわけではなく、むしろ心地よく感じられるのは、真似ようとしても容易には真似のできない人柄、個性によるものといえばよいでしょうか。軽妙な話術につられ、旅のことやら酒のことやら雑多な事どもについて語るうちに、いつしか滞在時間も延び、二本で終わりにするつもりだったお銚子を三本空けてしまいました。
昔ながらの店だけに、勘定は必ずしも明朗ではなく、百円単位の勘定を気にしながら呑む向きにはおすすめできません。しかし、古い呑み屋小路のカウンターに向かい、老練な店主と語らいつつ一献傾けるなら、ここが中洲で屈指の存在といえそうです。
★一富
福岡市博多区中洲4-1-193
092-281-5120
1800PM-200AM(日祝日定休)
酒三合
突き出し
鯖刺身
千里鍋
雑炊
この店に始めて立ち寄ったのは二年前、クリスマスを五島で過ごした翌日のことです。福江から四時間以上かかる寄港便で長崎に戻り、「安楽子」で軽く一杯引っかけた後、博多に移動し中洲で呑んだとき、立ち寄った中の一軒がここでした。古い呑み屋小路の情緒と、店主の客あしらいが心地よく、以後福岡へ寄るたび再訪の機会をうかがいながらも、定休日や臨時休業に重なるなどして、これまで振られ続けてきた次第です。今回待望の再訪を果たすと、店内には先客が一人のみ。聖夜の中洲で一人酒を酌むには好都合です。
大雑把に言うなら、もちろん「居酒屋」ということになるのでしょう。しかし、店の造りにしても仕事ぶりにしても、さすがは老舗と感じさせるものがこの店にはあります。まず、暖簾をくぐって右手にある、分厚い白木のL字カウンターに年季が入っています。その中に据え付けられた、カウンターに負けず劣らず分厚く立派な俎板が店主の仕事場です。背後には、氷を使ったこれまた古めかしい冷蔵庫が鎮座しており、整然と並んだ調理器具など、カウンター回りを眺めるだけでも楽しいものがあります。この店内からして、仕事ぶりも推して知るべし。突き出しには、薄切り肉と千切りの牛蒡を使ったすまし汁が出てきました。突き出しに温かいものを出す店というのは、往々にして外れがありません。酒は錫のちろりで湯煎し、袴を履いた細身の徳利に注ぐといった具合に、調理、器、盛り付けの一つ一つに丁寧さが感じられます。
品書きは鯖、鯵、鰯の光り物を中心に、煮魚、焼魚、揚物、一品、鍋物、食事という組み立てです。店主が一人で営む店だけに、それほど豊富なわけではありません。だからといって選択肢に困るということもなく、一人酒には好適。まず選んだ鯖の刺身には、山葵とともに青唐辛子が添えられてきました。次いで選んだ千里鍋は、鰯をぶつ切りにした小鍋です。これらで酒を二本と少し飲み干し、残った出汁を雑炊に仕立ててもらえば、一軒目としては必要にして十分といったところでしょう。
それにしても、今回改めて思うのは、店主が無類の話好きだということです。これほど間断なく喋るのは、自分の知る限り会津若松「麦とろ」の店主と、三日前に訪ねた長崎「桃若」の店主夫妻に若主人だけです。そのどれもが、決して騒々しいわけではなく、むしろ心地よく感じられるのは、真似ようとしても容易には真似のできない人柄、個性によるものといえばよいでしょうか。軽妙な話術につられ、旅のことやら酒のことやら雑多な事どもについて語るうちに、いつしか滞在時間も延び、二本で終わりにするつもりだったお銚子を三本空けてしまいました。
昔ながらの店だけに、勘定は必ずしも明朗ではなく、百円単位の勘定を気にしながら呑む向きにはおすすめできません。しかし、古い呑み屋小路のカウンターに向かい、老練な店主と語らいつつ一献傾けるなら、ここが中洲で屈指の存在といえそうです。
★一富
福岡市博多区中洲4-1-193
092-281-5120
1800PM-200AM(日祝日定休)
酒三合
突き出し
鯖刺身
千里鍋
雑炊
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