勿怪の幸い。

福長千紗の制作日記とあれこれ

小川洋子著の作品を読む度に。

2014-06-05 13:09:15 | 徒然
不手際や異物といった、様々なエラーと呼ばれるものや、そこに並べられる事象が、普通の影に身を潜め、適切な場所に運ばれるのを待っている。
密やかで控え目で申し訳なさそうな様子のそれらを大切に掬いあげて、不安でしょうがないという震えを治める。
それが何かと言うと、消失である。
失われる、失われた、失った。
自ら手放すこともある。
それは誰もが持っていて、絶対で、大切にするのも蔑ろにするのも自由だが、逃れる事は絶対にできない。
受け入れるしかなく、受け入れ難く、そのものより、それが起きた後、起きる前に存在していたという記憶や気配や匂いの方がより重量を持っている。
小川洋子という作家の小説は、消失にまつわる物が多い。
読み漏れが無いとは言えないので、総てとは言えないが、何かしら、誰かしら、ささやかに大胆に消失が起きる。
穏やかに当たり前に、失われて行く。
読み始めから読み終わるまで、ひたすら消失に向かう物語を受け入れるしか無く、抗う術は本を閉じるという事以外にはない事に、私はいつもびくびくしている。
失われるページに抗えない結末。
小説の内容も物理的な事実も、どこまでも失われてゆく。
繊細なレース編みをひたすらひたすら編み拡げている割に、編み始めたところからほどいて行くような感覚になる。
次の消失に手を出さないではいられなくなるのだ。

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