映画道楽

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さよならグルサルー(カザフスタン)★★★ アジアフォーカス福岡国際映画祭2009

2009年09月30日 | カザフスタン

2008年/カザフスタン/102分
監督: アルダク・アミルクロフ
出演者: ドフタルベク・キディラリエフ、
ジャネリ・マカジャノワ、
ソヴェトベク・ドシュマディロフ、
ヌルラン・サンジャル、
レイハン・アイトコジャノワ

20世紀初頭、ロシア革命後、ソビエト連邦のもとカザフ・ソビエト社会主義共和国が樹立される。
主人公のカザフ人のタナバイはで共産党員であることを誇りにしていた。第二次大戦後、復員したタバイは山で馬の放牧を始め、駿馬グルサルーと出会う。草競馬で優勝を重ねるグルサルーを党幹部が注目し自分の馬にしようと引き渡すように命じる。しかしグルサルーは荒馬で党幹部は扱いきれなくなり去勢してしまう。党に忠誠を誓いながらもタナバイはやり場のない怒りを覚える。そんなタナバイに党が命じた仕事は羊飼いの仕事だった。
もともとカザフ人のほとんどは元来遊牧民族で20世紀初頭までは人口のほとんどが遊牧生活を送っていた。豪雨でタナバイが飼っていた子羊が大量に死んでしまう。党はタナバイを非難するばかり、タナバイは党から排斥されてしまう。

第二次世界大戦後、タナバイは友人のツチョロと自分が住む小さな村で共産主義を実現しようと願い、本当に実現できると信じていた。そのためには勤勉な労働しかないと信じていた。しかし村の党幹部は無教養で私利私欲に走るばかり。人道主義も正義も通じない。共産主義など究極のユートピアに過ぎない。

タナバイには矛盾があった。カザフ人らしい自由な放牧民でありながら、ソビエト連邦主導の共産主義の建造者であった。母国と共産主義の狭間で、グルサルーという駿馬に出会うことで、その矛盾がより先鋭化していく。タナバイの信念が失われてゆく様子が興味深い。

老いたタナバイとグルサルーは曲がりくねった山道を歩きながら、若い頃の情熱、夢、希望を振り返るという設定で物語は進む。

男の人生は一本道ではない。まさいに紆余曲折。時に討ち死にもある。
しかし信念と理想がなければ男は生きられない。いやいや良い社会は実現しない。

その後、カザフスタンはソビエト連邦崩壊後、1991年にカザフスタン共和国として独立する。

原作はキルギスの作家チンギス・アイトマトフ、1928年キルギス共和国のタラス州の農村に生まれ享年79歳。父は共産党幹部ながら大粛清の時期に処刑された。

監督のルダク・アミルクロフは1955年、カザフスタン・アルク生まれ。「原作は古典的で強く独特で世界文明に取り組んだ作風で、近代中央アジアの問題を内包する物語だ」と語る。

「さよならグルサルー」はカザフスタン・アスタナで開催された第5回ユーラシア映画祭でグランプリを獲得している。

アジアフォーカス福岡国際映画祭2009 「あなたなしでは生きていけない」(台湾)★★★★★

2009年09月21日 | 台湾

2009年/台湾/92分
監 督: レオン・ダイ 戴立忍
出演者: チェン・ウェンビン 陳文彬、
チャオ・ヨウシュエン 趙祐萱

恋愛映画のようなタイトルだが親子の絆を描いている。

戸籍のない父親が娘に教育を受けさせたい一心で役所に頼むが法的無理で断られる。台北に行って知り合いの議員に頼むが調子の良い返事ばかりで最後まで面倒は見てくれない。行き場のない怒りで娘を抱きかかえ歩道橋から飛び降りようとする。

2003年に台湾で実際に起きた事件だ。また監督のレオン・ダイは是枝監督の「誰も知らない」を観たのが制作のきっかけになったという。

冒頭のスチールには色が付いているが、徹底してリアリティを追求した結果、映画の映像は色彩を捨てたモノクロになった。撮影時から白黒撮影にこだわった映像は厳しい現実を表現するのにふさわしいものとなっている。イタリア映画「自転車泥棒」や小栗監督の「泥の河」を彷彿させる。

弱者は危険で損な仕事ばかりさせられる。この父親も巨大船を点検する潜水夫の仕事をしている。海に潜るシーンでは事故にあって死にはしないかとハラハラする。船の上に残された娘はいつも父親が潜った海を覗いている。

「あなたなしでは生きていけない」は父と娘の絆を描いた傑作だ。

人を見ず融通の利かない行政にいらだちを覚えながら、父と娘の固い絆に涙が止まらなくなった。泣けた、感動した。機会があれば、ぜひ親子で観て欲しい。


予告編


アジアフォーカス福岡国際映画祭2009 虹の兵士たち(インドネシア)★★★★

2009年09月20日 | インドネシア


2008年/インドネシア/124分
監 督: リリ・リザ
出演者: チュッ・ミニ、ズルファニ、フェルディアン

タイトルから戦争ものかと思ったが、貧しい家のこどもたちと教師たちの心の交流を描く。舞台はインドネシアのブリトゥン島。1974年、島にはすず資源が豊富、そこにはかつての宗主国オランダが保有するすず工場があり恩恵を受ける富裕層は錫工場公社の小学校に通っている。一方、貧しい家の子ども達はイスラム系の小学校に通うが生徒数が少なく教師は男性と女性の教師が一人ずつ、そして校長が一人いるだけ。常に学校存続の危機にさらされている。そこでなんとか貧しい子どもたちに教育を受けさせたい頑張る校長と女性教師と「ここが人生の夢への一歩」とすすんで学校へ通う。そんな子どもたちの姿から学校存続の危機に悩む女性教師も校長も勇気づけられ励まされる。、子どもたちは教師たちのために村の祭りで伝統舞踊を披露したり、小学校対抗クイズ大会で頑張って優勝したりする。その健気な子どもたちの姿が観る者の胸を打つ。

人は自分のためにも誰かのためにも頑張らなければ踏ん張れないのではなかろうか。
こういう作品を日本の小学生に見せるべきだと思う。

「GIE」や「永遠探しの3日間」に比べると今回の作品は娯楽性の高い内容になっている。

テーマソングからはタイ映画『フェーンチャン ぼくの恋人』を連想した。
影響を受けたと思われる作品には木下恵介感億の「二十四の瞳」やチャン・イーモウ監督の「あの子を探して」やエドワード・ヤンの「ヤンヤン 夏の想い出」などど。と勝手に想像。

リリ・リザ監督について
風貌から東南アジアのスピルバーグと呼ぼう。


リリ・リザは1970年インドネシア マカッサル生まれ。39歳。ジャカルタ芸術学院映画学部卒業後、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校で長編劇映画脚本学を学ぶ。1994年、ドイツのオーバーハウゼン短編映画祭で卒業制作した「Sonata KamPung Bata」が3位に入賞。ロッテルダム(オランダ)、ドービル(フランス)などの国際映画祭で上映された。

<作品>
音楽ドラマ「シェリナの冒険」

2000年、インドネシアで大ヒット。

「エリアナ、エリアナ」

2002年、シンガポール国際映画祭でヤングシネマ賞および国際映画批評家連盟賞、バンクーバー映画祭で特別賞、ドービル国際映画祭最優秀女優賞。

「GIE」(2005)

インドネシア・フィルム・アワードで最優秀作品・男優・撮影賞。シンガポール国際映画祭審査員特別賞、アジア太平洋映画祭審査員特別賞。

「永遠探しの3日間」(2006)

ブリュッセル国際映画祭最優秀監督賞

「虹の兵士たち」(2008)
予告編
Laskar Pelangi The Movie - Official Trailer

インドネシア映画興行収入第一位。2009年ベルリン国際映画祭正体作品。

本作の原作者アンドレア・ヒラタと校長役のIkranegaraさんが映画祭で来福。物語はヒラタさんの子ども時代で周りで起こったことを元に書き上げた。この処女作ははインドネシアで25万部のベストセラーとなった。

アジアフォーカス福岡国際映画祭2009 黒犬、吠える(トルコ)★★★

2009年09月19日 | トルコ
リアリティにこだわった作品。這い上がりたくても這い上がれない移民2世の若者たちの実情を描くイスタンブール・ノワール。隠喩的な映像が印象に残る。後味の悪いエンディングは厳しい現状があるからだろう。夫婦で監督。旦那が移民2世。自分が育った環境をもとに脚本を書く。多少、描写がわかりづらかったり不足気味なところがあるが、それは想像力を駆り立てる狙いか。

アジアフォーカス福岡国際映画祭2009 爆走自転車(中国)★★★★

2009年09月19日 | 中国

2009年/中国/108分
監 督: 寧浩 ニン・ハオ
出演者: 黄渤 ホアン・ボー、
九孔 ジウ・コン、
戎祥 ロン・シアン、
高捷 ガオ・ジエ

中国で1億元の大ヒット。制作費はその十分の一という。アイデア勝負の映画。
金メダルを取れず銀メダルに終わった自転車レーサー。騙され続けて人生奈落の底へと転落する。中国は良い人が損をする世の中なのか。そこに中国に麻薬を買いに来た台湾マフィアグループと麻薬を運んできたタイ人。そして人を殺せない殺し屋とお互いの伴侶の殺しを依頼する夫婦。それぞれの事情が交錯しながら誤解と勘違いが意外な展開を生んでいく。ブラックジョークを交えスピード感あふれる語り口は見事。腹を抱えて笑ってしまった。中国語って、言葉は分からないけど音感がコメディにピッタリとはまる。ラストの自転車とトラックと車のアクションシーンはハラハラドキドキしながらも笑って楽しめる。

台湾マフィアは石塚英彦似。殺し屋は柄本明と笹野高史似のコンビという親近感あふれるキャラクターに加え、主役のホアン・ボーの頼りなげで人の良さそうな落ちぶれた兄ちゃんというキャラが妙に好き。

(ホアン・ボー)

監督は重慶を舞台にしたアクションコメディー「Crazy Stone」(2006)でヒットメーカーとなったニン・ハオ。1977年生まれ山西省の出身。北京電影学院在学中に撮影した『星期四星期三』(2000年)でデビュー。

(ニン・ハオ)

ホアン・ボーは「Crazy Stone」(2006)にちょい役で出演している。