MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯273 2015 日本外交の展望

2014年12月23日 | 国際・政治


 今年11月に入って、北京でAPECの首脳会議が開催された後、ミャンマーでの東アジアサミット、さらにオーストラリアにおけるG20首脳会議が開催されるなど、アジアにおける外交は、習近平体制のもと対外的な働きかけを強める中国を軸に活発な動きを見せています。

 北京では2年半ぶりに日中の首脳会談が実現し、長く続いた日本と東アジアの国々との閉塞的な関係も、ようやく改善の兆しが現れていると言えるかもしれません。

 そうした状況を踏まえ、11月26日の日本経済新聞では、元外務審議官で日本総研国際戦略研究所理事長の田中均(たなか・ひとし)氏が、独自の視点から「戦後70年」を節目としたアジアにおける日本外交の「展望」に関する寄稿を行っています。

 日本経済にとっての東アジアの重要性は、年を追うごとに増してきている。日本の貿易相量に占める中国、韓国、ASEANのシェアは2000年の34%から2013年には43%へと増加し、日本がアジアの安定に死活的利益を持つことは歴然としていると田中氏はこの論評で述べています。

 そんな中、中国は、今回のAPEC首脳会議の自国開催に当たり大きく「二つの目標」を掲げていたと田中氏は指摘しています。

 ひとつは、アジア・インフラ投資銀行やシルクロード基金の構想に代表されるような、アジア開発銀行や世界銀行などの既存の国際金融秩序とは別に、中国が主体となった地域の秩序、システムを作り上げようと意図していること。そしてもうひとつが、アジア太平洋地域で米国と肩を並べる「新型大国関係」の構築にあるということです。

 中国国内に目を転じるならば、そこに抱えられている政治的、社会的なリスクは極めて大きいと言わざるを得ない。そうした中、習近平国家主席は中国のアジアにおける国際的なステータスを確保し自らに権力と権威を集中させることで、国内改革を進めようとしているのではないかと田中氏は見ています。

 一方、氏によれば、もしも今後中国経済が停滞し国民への富の供給がストップするような事態となれば、民衆の不満が爆発し大きな混乱が訪れることになるということです。そんな時、中国共産党政権がナショナリズムの矛先を向けるのは、他でもない日本ではないかと田中氏は考えています。

 このような情勢に対するリスクをヘッジするために日本外交が採るべき姿勢は、米国ととりわけ安全保障の面で万全の関係を保持すること。そして、米国などとともに中国を様々に巻き込みつつ、東アジアの安全保障環境を整えることだというのが田中氏の見解です。

 そして、こうした外交環境を実現するため日本が特に留意していかなければならないポイントを、田中氏はこの論評で大きく5つ挙げています。

 その一つ目は「歴史認識」の問題です。政治指導者が歴史観において個人の心情を持つことは理解できるとしても、靖国問題や慰安婦問題が中・韓などの厳しい対日批判の口実なっていることは否めない。そうした中、米国との関係も含め、先の戦争で日本が加害者の立場にあったことを忘れていないことを示す行動が必要ではないかと田中氏はしています。

 そして二つ目は、米国との安全保障面を含む関係の強化だということです。日本は米国と、中国にどう向き合うかについてより緊密にすり合わせ、共通の戦略を再構築すべきである。集団的自衛権の一部容認を反映したうえで、北朝鮮有事の際の具体的な作戦計画の策定を可能とし、さらには沖縄の問題を対中戦略上の大きな安全保障体制の文脈の中で協議していくことだということです。

 さらに三つ目として、氏は他でもない中国政府との関係改善を挙げています。尖閣問題に安易な解決策は見いだせないことを前提とし、まず、軍事的な信頼の醸成を図ること。そして東アジアにおける経済や貿易のルール作りを急ぎ、TPPの合意を達成したうえで東アジア地域包括連携協定(RCEP)の締結に向けた努力を重ねるべきだとしています。

 四つ目のポイントは、北朝鮮拉致問題に関する解決の努力を続けることだと田中氏は言います。北朝鮮側からいかなる調査結果がもたらされても、その内容を検証しとことん真実を究明していくという冷静な態度を維持していくことが、東アジアの安定と発展のために必要とされているということです。

 そして最後に田中氏が掲げているのが、戦後70年という節目の年におけるひとつの「総括」を行うことです。戦後70年を中国が意図しているような「戦勝国対敗戦国」という枠組みで語るのではなく、日本政府として日米連携し、世界に向け明確なメッセージを発出すべきだという指摘です。

 敗戦により一旦は焼け野原となった戦後の日本が、平和国家として短期的に経済発展を遂げ、環境問題などを克服し比較的格差の少ない穏やかな社会を作ってきたことは、世界に広く知られています。

 こうした事実に焦点を当て、世界の安定に資するという日本の決意を改めて示すことが、中国との関係上も極めて重要になるだろうとする田中氏の認識を、重要な指摘としてこの論評において大変興味深く読みました。



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