MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2042 「飲みニケーション」はもう要らない

2021年12月16日 | 社会・経済


 東京や大阪など5都府県での飲食店に対する営業時間の短縮要請が10月下旬に解除されてから1か月以上がたちました。

 夜の街にも(少しずつではありますが)客足が戻っているようにも見えますが、外食や居酒屋の各チェーンからは「新型コロナウイルス感染拡大前には及ばない」「遅い時間は波が引いてしまう」との声が聞こえてくると11月7日の時事通信が伝えています。

 飲食店情報サイトを運営するぐるなびによると、10月の飲食店のネット予約件数は、緊急事態宣言が発令されていた9月に比べ2.4倍に増加。3人程度のグループが多く、時短要請の解除後はさらに予約が伸びているということです。

 しかし、在宅勤務の導入・拡充などコロナ禍のさなかに生じた働き方の変化は、居酒屋などに苦戦を強いており、時短解除に伴い全店で営業を再開した居酒屋チェーンのワタミでも、午後8時以降は入店客が激減し二次会需要が完全に失われた状況だということです。

 また、新宿や池袋、新橋などの以前なら多くのサラリーマンが深夜まで集った盛り場でも、午後9時を過ぎるとかなり静かになってしまうという状況が続いているとの声もあります。

 学生など若い層向けの店は活況を取り戻しつつあるが、もう一方のサラリーマン層向けの和食居酒屋は客足が鈍く、売り上げはコロナ禍前の同時期と比べ総じて4割程度しか戻っていない。大人数の会食を禁じる企業がまだ多いことや、長引く自粛生活で深夜まで酒を飲む習慣が減ったことが響いていると関係者は見ているということです。

 1年半以上続いた新型コロナの自粛生活によって、日本人の食生活や生活習慣にどのような変化が生じたのか。

 ビールを中心とした酒造メーカのキリンホールディングスが、月に1回以上飲酒する全国の20~50代の(割と酒好きの)男女1000人を対象に実施した「コロナ禍を受けた飲酒と『アルハラ』に関する実態調査」の結果を今年の4月に公表しています。

 それによると、コロナ収束後に復活させたい飲み会の1位は「花見」(43.9%)で、2位は「忘年会」(41.9%)、3位は「誕生日会」(40.5%)で、その季節ならではのイベントが恋しくなっている人が多いようです。

 一方、コロナ収束後も「ないままでいい」と感じている飲み会としては、1位が「取引先の接待」(64.8%)で、2位は「会社の定期飲み会」(61.9%)、3位は「新年会」(49.5%)と続いたとされています。

 1位と2位がともに60%以上の回答を集めていることからわかるように、(できることなら)仕事関連の飲み会はコロナを機に無くなってほしい、仕事とプライベートは別にしたいと感じている人が多いということでしょう。

 11月25日の日本経済新聞によれば、10月に実施した日本生命によるインターネット調査で、お酒を飲みながら職場の仲間と親交を深める「飲みニケーション」を「不要」と回答した人は全体の6割を超え、2017年の調査開始以来、初めて「必要」の割合を上回ったとされています。

 飲みニケーションが不要だと答えた人は全体の62%で、内訳は「不要」が37%、「どちらかといえば不要」が25%。不要と考える理由は「気を使う」が37%、「仕事の延長と感じる」が30%、「お酒が好きではない」が22%だったと記事はしています。年代別では、不要と答えた人の割合が最も高かったのは「20代まで」の66%で、若い世代には飲みニケーションはもはや通用しないということなのでしょう。

 一方、「必要」との回答は38%で、内訳は「必要」が11%、「どちらかといえば必要」が27%。必要な理由は「本音を聞ける・距離を縮められる」が58%で最多。「情報収集を行える」が39%、「ストレス発散になる」が34%だったということです。

 記事によれば、この結果についてニッセイ基礎研究所の井上智紀主任研究員は、「コロナ禍で会食できなくなり、お酒を介してコミュニケーションすることに疑問を抱く人が増えた」と分析しているということです。

 さて、(それでは)コロナが収束して以前のように会食ができるようになれば、本当に「飲みニケーション」は再評価されようになるのか。少なくとも広く状況を見渡せば、以前の状況に戻るには感覚的にもまだまだ時間がかかりそうな気がします。

 実際、野村総合研究所が、今年の7月に全国1万8800人を対象とした日常生活に関するインターネット調査でも、回答者の実に75%が(コロナ)以前の日常生活には「完全には戻らない」と回答したとされています。

 「ある程度は戻るが完全には戻らない」が59%で、「同じ生活を送り続ける」が16%。この結果について、調査を主導した野村総研の林裕之氏は、「日本人の2割弱はコロナ禍の行動変容で意識や価値観も変わってしまった」と分析しているということです。

 自粛生活や接触機会の提言といった環境の変化が、私たちの生活の中に存在していた様々な「不要なもの」に気づかせてしまった。一度、経験してしまった気楽さや身についた習慣はを元に戻すのは、そう簡単なことではないでしょう。

 消費構造や市場が変われば、サービス自体を変化させていく必要があるのは自明です。現状の維持、経営の延命のみを目的とした政府による一時的な経済対策では、もはや経済の再生を見込めない状況が生まれているのかもしれないと改めて感じるところです。


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