MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2404 現代のアヘン戦争

2023年05月02日 | 環境

 米ミシガン大学研究チームが2020年の米国疾病予防管理センター(CDC)の統計資料を分析した結果、アメリカの20歳未満の若者の死因において「交通事故関連」を抜き、「銃器関連」が初めて第1位となったと報告しています。

 死因トップとなった殺人や自殺などに用いられた銃による若者の死亡は2020年に前年比約3割増の約4300件にまで急増し、交通関連死の約3900件を上回ったということです。さらに同チームの報告によれが、「銃器」「交通事故」に続く3番目の死因は「薬物」関連の約1700件で、前年比約8割増とのこと。アメリカの若者たちが、いかに「銃」「事故」「薬物」といった米国社会に蔓延するリスクと隣り合わせで生きているかが判ります。

 因みに、厚生労働省が毎年発表している「人口動態統計」によると、日本における2020年の20歳未満の若者の死因は、①悪性新生物、②不慮の事故、③自殺が上位を占めています。15~19歳の思春期の男女に限って言えば、男性の1位は「不慮の事故」の35.0%、2位は「自殺」の29.9%、3位が「悪性新生物」の9.7%。女性の1位は「自殺」の33.8%で、2位「不慮の事故」(23.0%)、3位「悪性新生物」(9.9%)と続きます。

 数字を並べて見ると、残念なことに「自殺」や「事故」の占める割合の大きさに改めて驚かされますが、(どこの社会でも)若者が「成長」するのにはそれなりのリスクが伴うということでしょうか。日本の統計に「銃」や「薬物」などが顔を出さないのも、単に「環境の違い」と言ってしまえばまさにそれまでのことなのかもしれません。

 そんなことを考えていた折、3月18日の情報サイト「Newsweek日本版」に国際ジャーナリストの山田敏弘氏が『中国が仕掛ける「現代のアヘン戦争」...米国でフェンタニルが若者の死因1位の異常事態』と題する論考を寄せていたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 山田氏によれば、先日、米国の政治専門紙の『ザ・ヒル』に掲載されていた記事に、「アメリカ人18~45歳の死因のトップが、心臓疾患や癌、自動車事故、新型コロナなどではなく、フェンタニルだと知ったら驚く人もいるだろう」と記されていたということです。

 フェンタニルとは、モルヒネの50~100倍の鎮痛作用があるという非常に強力な鎮痛剤とのこと。フェンタニルとは合成オピオイドの一種で、この「オピオイド」というのは、けしの実からから採取される有機化合物と、そこから生成される化合物の総称だと氏は説明しています。

 この薬品がアメリカで蔓延し、以前から大きな社会問題となっている。記事は「アメリカで発見される違法なフェンタニルのうち90%以上が中国から来ている」とし、中国がアメリカに近代の「アヘン戦争」を仕掛けていると指摘しているということです。

 アメリカ政府は2018年に中国に対してこの事実を突きつけ、対応を迫った。そこで中国は「フェンタニル関連薬物」を規制薬物に指定したが、実際にはきちんと規制されていないと反発が上がっているとされています。

 以前は国際郵便などで直接、アメリカから購入して捌くような売人がのさばっていたが、米当局が中国への制裁措置などを講じるようになると、今度は中国からメキシコの麻薬カルテルなどを経由してアメリカに違法フェンタニルなどが届くようになった。中国が違法薬物の輸出の規制を強化しない限り、(結局のところ)いつまでもアメリカに違法薬物が流れ続け、若者の命を奪い続けるだろうと山田氏はしています。

 これら違法フェンタニルは、街では、「China Girl」「China White」「Murder 8」「Jackpot」といった名称で密売されている。中国外務省は2019年に、世界全体の5%を占めるアメリカ人が世界のオピオイドの80%を消費しているとし、アメリカ政府自身が「国内の麻薬への需要をもっとコントロールせよ」と批判しているということです。

 さて、こうした状況について、在米中国大使が2022年、米ニューズウィーク誌のインタビューに応え、「中国から(フェンタニルやその関連麻薬を製造する)物質がメキシコに密輸されてフェンタニルの製造に使われているというメキシコからの報告やデータは受け取っていない」と否定しているとされています。そして同時に「中国も19世紀にイギリスのアヘン戦争の犠牲者になった」と話したということです。

 一方でメキシコの大統領は今年の3月17日、アメリカ人がフェンタニル中毒になる理由は、「家族がもっとハグし合わないからだ」と語ってニュースになったと山田氏はこの論考に綴っています。

 確かに、若者たちが米国で比較的安価なフェンタニルを入手できなくなったとしても、結局は他のドラッグに走るだけ。また、規制によってドラッグが高価なものとなれば、犯罪に手を染める若者が増えるのもまた自明と言えるでしょう。

 アメリカというリアルな競争社会の様々なストレスは、こうして社会の(特に)弱い場所に毎日ヒリヒリとダメージを与え続けているのでしょう。そして、そうしている中で、中毒死のニュースは次々と報じられていく。

 近代の「アヘン戦争」の行方はわかりませんが、(100年経とうが200年経とうが)いくら時代が変わっても結局のところ犠牲になるのは常に虐げられた者たちだということを、私たちは肝に銘じておく必要があるのでしょう。

 



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