金融広報中央委員会(事務局・日銀)が昨年11月10日に公表した2017年の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、国内に暮らす2人以上の世帯のうち、将来に備えた預貯金や株などの金融資産を持たない世帯の割合は概ね3世帯に1世帯、割合で31.2%(前年は30.9%)に達し過去最高を記録したということです。
一方、単身世帯で資産を持たない割合は46.4%と過去最高だった前年(48.1%)よりもわずかに下回りましたが、それでも単身世帯の約半数が貯金などの金融資産を持たない「その日暮らし」の状態にあるという現実に大きな変化はありません。
振り返れば、日本経済がリーマン・ショックの打撃を強く受けた2009年時点でも、金融資産を持たない二人以上の世帯は22.2%、単身世帯でも29.9%にとどまっていたということです。株高などの好調な経済状況が報じられている現在であっても、その一方で厳しい暮らしを余儀なくされている世帯が急激に増えつつあることが、こうした数字によく表れています。
もとより、金融資産を持つ世帯に限定すれば、ここ3~4年の株高の恩恵は確かにもたらされていると言えるでしょう。(同世論調査で金融資産を有する世帯に対し資産の状況を聞いたところでは)この1年間に保有株の値上がりなどによって「金融資産が増えた」と回答した割合は、2人以上世帯が前年の22.3%から28.6%に、単身世帯では35.6%から42.9%にいずれも増加したとされています。
金融資産を持たない世帯の割合の推移を、もう少し細かく追ってみましょう。
2人以上の世帯のうち金融資産を持たない世帯は、1980年には全世帯の5.3パーセントであったものが、バブル景気初期(1987年)には3.3パーセントまで下がり史上最低を記録しました。つまり、その時点では日本のほぼすべての世帯が、何らかの金融資産を保有していたということになります。
しかし、1991年のバブル崩壊以降、金融資産を持たない世帯の割合は徐々に上昇し、約10年後の2003年には21.8%にまで拡大しました。その後、2010年くらいまでは22%台に留まっていたようですが、東日本大震災を経験した2011年頃から再び上がり始め、2017年には31.2%と、約3世帯に1世帯というレベルまで広がるという経緯をたどっています。
勿論、その大きな要因として、高齢化の進展、特に1947年から49年に生まれた団塊の世代が2002~7年頃から続々と定年退職期を迎え、大量の年金生活者を生み出したという時代的な背景があったのを忘れるわけにはいきません。
退職によって収入の道が絶たれる中、貯蓄を食いつぶしながら生活する彼らの世代が、徐々に金融資産を失っていく姿がそこには見出されることでしょう。
しかし、実際のところ、この10年ほどの間に金融資産を失ったのは、こうした高齢者世帯ばかりではなかったようです。
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均給与は1997年の467万円をピークとして、2009年には406万円まで下がっていることが判ります。その後は、再び少しずつ上がって2016年には422万円まで持ち直してきましたが、社会保険料などが大きく上昇していることから、可処分所得、いわゆる手取り収入は必ずしも上がっていないというのが(サラリーマンが置かれた)現状だと考えられます。
高齢者が増えた、非正規雇用が増えた、給料は上がらない、なので貯金ができない。その一方で、受け継いだ資産がある人や一定の収入が確保できる人たちは、それを元手に投資をし、利益を上げている。
「一億総中流社会」が終焉を迎えたバブル経済の頃、巷では「勝ち組」「負け組」、「まる金」「まるビ」などと言う言葉が流行りましたが、それを地で行くような格差社会が今、この日本に訪れているということでしょう。
「宵越しの銭は持たない」のが江戸っ子気質と言われた時代もあったようですが、それは地域社会や家族・親族間の互助機能が生きていたからこそ(なんとか)成り立つものでした。しかし、そうした繋がりが希薄になった現代社会においては、(今はなんとか暮らしていけている人々でも)病気やケガ、災害などに見舞われたらその生活はひとたまりもありません。
生活保護制度などの最低生活を保障するシステムはあるにしても、実に3分の1から半数の世帯が蓄えも持たず、リスクをヘッジする術もないままに暮らしている現実を考えれば、社会の「脆弱化」をもっと真剣に考えてみるべきなのではないかと(こうしたデータから)改めて感じている次第です。
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