MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1187 ポスト米国1強時代を生き抜くには

2018年10月10日 | 国際・政治


 ドナルド・トランプ米大統領は2017年1月20日の大統領就任以来、パリ協定やイラン核合意などからの離脱や、シリアへのミサイル攻撃、北朝鮮ミサイル問題への介入、エルサレムへの米大使館の移転など、これまでの経緯を無視した(外からは「思いつき」とさえ見える)独自の外交・軍事政策を次々と打ち出してきました。

 また、経済の分野では、NAFTAやTPPからの離脱表明を皮切りに、ヨーロッパ、日本、韓国などの貿易黒字国に圧力をかけるとともに、最近では中国やトルコに対して(貿易戦争とも呼ばれる規模の)経済制裁を科すなど、アメリカの利益を最優先に傍若無人な政策を展開しています。

 米国のトランプ政権による「アメリカ・ファースト」の嵐がこうして世界中に吹き荒れる中、8月28日のDIAMOND ONLINEに掲載されていた立命館大学教授の上久保誠人氏による「米国が世界の暴力団となった国際社会を日本が生き抜く道」と題する寄稿を興味深く読みました。

 思えば今から1年半前、トランプ氏が米大統領に就任した際、多くの識者が「彼だって大統領になれば変わる」という「願望」を持っていたと氏は言います。

 結局見事に裏切られた彼らは現在、これまで米国が築いてきた国際秩序が崩壊していくことを憂い、米国が「トランプ以前」に戻ってくれることを必死に祈り右往左往しているように見えるということです。

 しかし、時代は既に権威もしきたりも常識も通用しない、何が起こってもおかしくない、自分の頭で考えていくしかない(サバイバルの)時代を迎えているというのが、この論考における上久保氏の認識です。

 もしも「トランプ以前」の「世界の警察官」だった米国にはもう戻らないとすれば、我々は、米国が「世界の暴力団」となってしまった国際社会をどう生き抜いていくべきか。

 上久保氏はここで、まず米国が「世界の警察官」になる前のことを振り返ってみたいとしています。これまで多くの国が米国の同盟国になることで得たメリットがある以上、「米国の同盟国になる前」がどういう状況だったかを振り返れば、そこには今後の身の処し方のヒントがあるのではないかということです。

 米国が国際社会を「仕切らなかった」時代、世界は一体どのような状況にあったのか?

(1)ヨーロッパではフランスとドイツが、お互いに相手を警戒して武装し何度も戦っていた。
(2)スウェーデンやオランダなどの中規模の国家は防衛に最大限の努力を割かねばならず、貿易に焦点をあてて自国の強みを活かすことなどに集中できなかった。
(3)世界中の貿易路の安全が保障されないため、自ら軍隊を展開してさまざまな土地を占領する必要があった。
(4)英国、フランス、スペイン、ポルトガル、オランダなどは、世界中に植民地を確保してそこから搾取し続けた。後発のドイツは植民地が少なく、資源確保のために、ロシア(ソ連)や英仏に戦いを挑んだ。
(5)日本は、朝鮮半島、台湾を植民地とし、中国東北部(満州)と東南アジアから搾取しようとした。中国は、外部の干渉を受け続けて、国の基盤を固める安全な環境を得られなかった。

 さて、要するに米国が第二次大戦後の同盟体制を築く以前とは、それぞれの国が、領土の安全の確保、資源の確保、市場の確保のため、お互いを「敵」として警戒し合う必要に迫られた時代だったと、この論考で上久保氏は説明しています。

 そして、米国が「世界の警察官」から降りることを表明して撤退しつつある現在、少しずつ昔に戻りつつある感じがしないだろうかと氏はここで指摘しています。

 米国に守られ、米国市場に自由にアクセスできたことで、奇跡的な高度経済成長を達成した日本やドイツのみならず、韓国、台湾、オセアニアの諸国、北米大陸、西ヨーロッパ、そして後には共産主義の中国までもが、歴史上前例のない安全と豊かさを享受してきた。

 しかし、米国がそこから立ち去るというのなら仕方がない。(米国に「守ってもらい」「食べさせてもらう」ことで多くの国が生きられるという状況を超えた)新しい国際秩序を築かねばならないというのが、この問題に対す上久保氏の見解です。

 まず変えるべきは、それぞれの国が米国の方ばかりを見ていることだと氏はここで指摘しています。

 端的な例が日本と韓国で、両国とも米国と対話しようとするばかりでお互い(腹を割って)直接対話することには積極的ではない。米軍に依存してきた安全保障についてばかりでなく、歴史認識問題のような純粋に日韓の間の懸案事項でさえ米国が間に入らないとまともに解決策が見いだせないということです。

 氏によれば、これは中東におけるサウジアラビア、イラン、イスラエルの関係にも当てはまるということです。また、欧州には、経済に関してはEUという話し合いの枠組みがあるが、安全保障についてはNATOがありながら、実際は英国もフランスもドイツも米国にかなりの部分を依存している実情がある。

 そうした中、米国は「世界の警察官」をやめたとはいえ軍事力においてはいまだに圧倒的な世界最強の座に君臨しており、「世界の暴力団」として気にいらない国があればいつでも介入できる状況にあるということです。

 そこで、「ポスト米国1強体制」の世界秩序を模索するとすれば、この辺で(米国に輸出することばかりでなく)米国抜きでお互いに仲良く儲けることを考えてはどうかと上久保氏は説明しています。

 そして、儲けたお金を、米国に投資してあげればいい。米国は今後、「米国に守ってもらい、食べさせてもらう同盟国」は必要としないという。しかし、米国を儲けさせてくれる国に対しては「用心棒」を務めてくれるだろうと氏は言います。

 日本には、TPP11、RCEP、EUとの経済連携貿易協定(EPA)など、様々な自由貿易体制の枠組みを使ったり、中国が主導する「一帯一路」に積極的に参加していったりという道もある。

 こうして様々な国々が「米国抜き」で互いに儲けていって、軍事を担う米国を「食べさせる」仕組みづくりを主導していけば、米国に極度に依存しない新たな国際秩序が生まれえるのではないかという指摘です。

 とは言え、トランプ政権は何を考えているのかよくわかりません。誤解に基づく政策を選挙対策のためだけに打ち出すことも考えられ、各国もどこまで信頼できるのかを測りかねている現状もあります。

 しかし、いずれにしても、これまでどおりの安全や成長を国際社会に期待するのであれば、米国に依存してきた「安定のためのコスト」を誰かが負担し、誰かが担っていかなければならないのは自明です。

 米国に多くを依存している限り、結局、米国の言うことは聞かなくてはならない。どんなにトランプ氏が理不尽であっても、知恵がなければ腕力のあるジャイアンにはとうていかなわないということでしょう。



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