MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2056 若者はなぜ声を上げないのか

2022年01月04日 | 社会・経済


 少子高齢化が進み有権者に占める高齢者の割合が年々高まっていることに加え、高齢者の投票率が若い世代より(かなり)高いこともあって、(いわゆる)「シルバー民主主義」の弊害が様々に指摘されるようになっています。

 例えば(データがはっきりしている)2017年の衆議院議員選挙では、20代の投票率は34%と60代(72%)の半分以下。これでは、若者世代の意見や利益が政治に大きく反映されるわけはありません。アンケート調査の結果などには「入れたい候補者がいない」「投票しても何か変わるわけではない」などといったお決まりのセリフが並びますが、日々の暮らしに忙しい若者としては「面倒くさい」「興味がない」というのが本当のところなのかもしれません。

 低投票率対策として、若い世代に政治への関心を持ってもらおうという働きかけが各地で続いていますが、「大変な効果を上げた」という話はつとに聞いません。こうした状況に、高齢者の影響力を抑えるために「投票制度を変えるべきだ」という意見もあるようです。しかし、投票に行く一部の若者だけの意見を政策決定に反映させ、「これこそが民意だ」というのもどこか違っているような気がします。

 なぜ、若い世代は政治参加への興味や関心を失っているのか。12月15日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に教育社会学者の舞田敏彦氏が「社会への不満はあるが、政治には参加したくない日本の若者たち」と題する一文を寄せているので、概要を紹介しておきたいと思います。

 11月下旬に投開票された衆院選の投票率は55.9%で、戦後で3番目に低い水準だった。年齢層別のデータはまだ公表されていないが、前回(2017年)の結果からすると、20代の投票率は大よそ3割ほどではないかと舞田氏はこの論考に記しています。豊かな国・日本では若者は社会への不満を持っていないかというと、そのようなことはない。内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識調査』(2018年)によると、日本の20代で「自国の社会に不満がある」と答えたのは49.3%と概ね半数に及び、アメリカの33.5%、イギリスの39.5%よりも有意に高いということです。

 実際、年功序列の賃金体系が一般的な日本では、若者は能力に関係なく低い給与で働かされている。最近ではあまりに安くなって、実家を出ることもできないほどだと氏は言います。高齢化の進行で税金も社会保険料もガッポリ取られ、自分たちが高齢期になる頃には年金すらもらえない可能性もある。日本の若者が社会に不満を持つのも(氏から見れば)十分に理解できるということです。

 こうした状況を変える合法的な手段は(もちろん)政治参画だが、日本の若者はその意欲も低い。上記の調査によると、日本の20代の53.7%が「主権者として、国の政策決定に参加したくはない」と答えており、こちらも他国と比較してかなり高いと氏は指摘しています。社会への不満を持ちつつも、それを変える政策決定への参加は欲しない。経済的な格差が広がる中、日本の若者は(以前よりも)さらに厳しい状況に置かれているとされているが、それでもひたすら現状を耐え忍び、主張もせずに自粛生活の中でコツコツと暮らしているというのが氏の認識です。

 それが限度に達して自らを殺めてしまう者もいる。日本の20代の死因で最も多いのは自殺であり、さらに怖いのは、腹の底の不満(マグマ)が非合法の方向を向いてしまうことだと氏は言います。学校などにおける極端ないじめ行為やネット上での炎上騒ぎにとどまらず、ここのところ連続して発生している若者による無差別刺傷事件などに、そうした兆候が感じられるということです。

 政府によるコロナ対応への批判などもあって、注目されることが増えたようにも感じられる「政治の世界」ですが、それでもなぜ日本の若者たちは政治への参画を望まないのか。これはよく言われることだが、日本人は幼少期から「出しゃばるな」と頭を押さえつけられて育つ。学校でも校則で縛られ、異議を申し立てるとろくなことがない。こういう状況が継続することで、「政(まつりごと)は偉い人に任せよう」というメンタルが植え付けられているのではないかと、氏はこの論考に綴っています。

 さて、学校というのは実社会のミニチュアで、日本の学校では児童会・生徒会活動など、民主主義の主権者としての振る舞い方を学ぶカリキュラムも組まれています。しかし、そうした活動に(積極的に)携わるのはごく一部の生徒で、実際クラスのまとめ役などを買って出るような生徒も決して多くないようです。教員をやっている知り合いなどの話でも、学級委員は押し付け合いで、生徒会役員選挙はウケ狙いの人気投票の状況を呈している学校も多いと聞きます。 

 若者たちが「政治なんて自分には関係ない」と思う背景には、議論の機会を持たない教育や管理主義的な学校運営の在り方の問題があるのではないか。教育環境や校則、教員の態度など、よくない所は話し合いで変えるという経験をしてこなかったことが、現状を生んでいるのではないか。こうした状況に舞田氏は、政治参画によって社会は変えられることを、具体的な事例でもって分からせる必要があると指摘しています。

 その手段は投票だけでなく、陳情や署名なども含まれ、生徒が馴染んでいるSNSはそのツールとして機能する。そこに書き込まれた思いが政治家の目にとまり、政策につながった例などがあることも、案外、学生は知らないということです。

 社会への不満(思い)を政治的関心に昇華させる。これができていないのが、日本の若者の特徴だと氏は言います。もとよりこれは若者だけの問題ではなく、日本人全体に言えることなのかもしれないと、この論考を読んで私も改めて感じたところです。


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