MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2527 高校無償化で独走する東京都

2024年01月11日 | 教育

 東京都の小池百合子知事が、来年度から高校と都立大学の授業料について、支援の所得制限を撤廃して実質無償化すると発表し話題になりました。 

 公立学校に通う高校生に対しては、既に国の支援により全国一律で世帯年収910万円未満の家庭を対象に授業料の無償化が図られています。一方、私立学校に通う生徒に対する支援は各都道府県によって対応が異なっており、東京都の場合、都内の私立高授業料の平均に相当する47万5000円を上限に助成することで、実質的な無償化が図られています。

 そして今回の発表は、2024年度の予算に新たに555億円を盛り込み、この(世帯当たり910万円という)年収条件を撤廃。私立を含む全ての高校の授業料を実質無償化しようとするものです。

 小池知事は記者会見において「経済的な状況にかかわらず、子どもたちが、みずからの思いで進路を選択できるような東京を実現していく」と述べましたが、これはあくまで財政状況に余裕のある東京都だからできること。

 住んでいる場所の違いによる格差が広がることに対し、神奈川、埼玉、千葉など近隣県の保護者から不満が上がっているほか、(東京に集中している)私立学校への受験生の流出を懸念する近隣県の私立学校からは、「経営権を損なう」「経営上の危機」といった強い反発の声も聞かれています。

 さらっとニュースを聞くだけでは、「さすが小池さん」「子育て対策に手厚くてありがたい」などと感じる都民も多いことでしょうが、都立高校の定員割れなども進む中、特に私立を優遇する形となる突出した東京都の対応に、教育現場は混乱を見せている観もあります。

 加えて(これは毎回のことではありますが)、今年7月に都知事選挙を控える小池知事お得意の「人気取り」「選挙対策」といった声も聞こえてくる中、私も一人の都民として、この税金の使い方には(何となく)違和感を覚えないではありません。

 そうしたことを感じていた折、12月20日の情報サイト「Newsweek日本版」に経済評論家の加谷珪一氏が、『高校無償化、東京都の「独走」で何が起きる? 小池都知事の思惑と、実現時のインパクトとは』と題する論考を寄せていたので、参考までにその概要を小欄に残しておきたいと思います。

 小池百合子都知事は2023年12月5日、都議会の所信表明において、私立高校も含む全ての高校の授業料を実質無償化する方針を明らかにした。これまで都の授業料助成には所得制限が存在していたが、これを撤廃し、併せて給食費の支援も行うことを明らかにしたと加谷氏はことの経緯を説明しています。

 都政として教育支援を強化する流れを鮮明にした小池知事。小池氏はもともと教育無償化を強く主張していたこと、24年夏に知事選が控えていることなどもあるが、このタイミングでの表明にはもう1つの狙いがあったはずだというのが加谷氏の見解です。

 それは、国政に対する自身の影響力の維持というもの。所信表明において小池氏は、教育支援は本来、政府主導で行うべきと発言、国政への注文がセットになっていたと加谷氏は話しています。

 岸田政権がほぼ同じタイミングで多子世帯の大学無償化を含む「こども未来戦略」を打ち出し、国民民主党の前原誠司氏が「教育無償化を実現する会」という新党結成を表明するなど、無償化をめぐる中央政界の動きは活発化している。

折しも、岸田政権は末期症状を呈しており、最大派閥である安倍派幹部が一斉に捜査対象となるなど、政権崩壊や場合によっては政界再編の可能性すら取り沙汰される状況に、あえて「国政に対する注文」という形で無償化を掲げた小池氏の動きは、今後の国政でこの問題がカギを握る可能性を示唆するものだということです。

 これまで教育無償化は何度も議論されながら、内容が二転三転してきたという経緯がある。子育て世帯や教育に熱心な世帯を中心に大きな支持を集める一方で、全ての人が同じ条件で学校に通えることについて異議を唱える人も存在していると加谷氏は指摘しています。

 加えて無償化政策は財政負担が大きく、政府主導で一気に無償化を進められない。そうであるが故に、政局の材料になっていた面があることは否定できないというのが氏の認識です。

 今回の小池知事の動きが選挙に関係していることは(ある意味)間違いはなく、本格的に日本全体が無償化に舵を切るきっかけとなるがどうかは何とも言えないと加谷氏言います。

 もしも単なる選挙目当ての掛け声で終わった場合、東京都のように財政的に余裕のある自治体だけが率先して無償化を進める流れとなり、近隣自治体との格差が広がるだけに終わる可能性もあるということです。

 問題の「教育格差」に関しては、東京都港区が区立中学の海外修学旅行について、1人当たり40万円の支援を行ったことが全国的にも大きな話題となった。豊かな地域に住む人が良い教育を安価に受けることができ、格差是正の役割が期待される公教育も高所得地域のほうが充実しているというのでは、公教育の在り方そのものが問われかねないというのが氏の懸念するところです。

 まさに「機を見て敏」、政治的な直観力に長けた小池都知事の面目躍如といったところでしょうか。メディアや都内の有権者の注目を浴びるポイントが分かっているからこその動きであることは、論を待たないところです。

 一方、今回の発表を受け、埼玉県民や千葉県民の中からは都内に転居したいという声も聞こえてきているということであり、首都圏を中心に「大迷惑」だと感じている政治家も多いはず。小池さんはまた敵を作ってしまったなと、思わないでもありません。

 いずれにしても、東京一極集中を加速するようなこうした東京都の大盤振る舞いに対し、国や首都圏の近隣県はどう動くのか?目の離せない状況が続いていくのだろうなと、私も改めて感じているところです。



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