MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2440 そこに「根拠」はあるんか?

2023年07月14日 | 政治

 最近、メディアなどでしばしば目にするようになった「EBPM(Evidence-Based Policy-Making」という言葉。直訳すれば「根拠に基づく政策形成」となり、ロジック(理論)とデータ(数値)に基づき、効果との因果関係が証明できる政策を優先的に実行するという政策決定手法を指しています。

 簡単に言ってしまえば、これまでの「なんとなく効果がありそうだ」と言うレベルの政策を排し、「所定の目的を達成するために効果的な政策」に切り替えていこうというもの。EBPMを重視した予算配分は、欧米を中心に世界の先進各国で取り入れられているということですが、日本ではまだ十分浸透しているとはいえません。

 ということは、(逆に言えば)日本の政策のかなりの部分がしっかりしたエビデンスを踏まえたものではないということになりますが、それもそのはず。コロナ禍をはさんで、選挙をにらんだ人気取りのためのバラマキや経済対策名目での業界支援などが目立つ昨今の状況を見れば、さもありなんと言ったところです。

 民主主義の名の下で、世論は時としてとても最適とはいえないような政策を支持し、一方の政治はそうした(虚ろな)民意をくみ上げようとする。結果として最適解とは程遠い政策が優先されるのはよくあることで、こうした国民の意識と最適政策の乖離を少しでも小さくする手段としてEBPMが存在するのでしょう。

 こうして期待されるEBPMに関し、5月30日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」が『根拠に基づく政策の立案を』と題する一文を掲載していたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 岸田政権の看板政策の一つ「異次元の少子化対策」は本当に「異次元」の効果を上げることができるのかと、筆者はこのコラムの冒頭で厳しく疑問を呈しています。

 今回の対策では、児童手当の拡充など多子加算の強化が検討されている。しかし、結婚や出産に至らない世帯が増えており、むしろ、そうした層への支援を拡充する方が効果を期待できるとの指摘もある。

 そもそも異次元の少子化対策というのなら、日本の少子化の要因分析や、これまでの少子化対策の効果を検証し、(それらを踏まえた)効果的な政策立案や目標設定、財源の調達が図られるべきだというのが筆者の見解です。

 しかし、今回の少子化対策では「児童手当の拡充」が先にありきの感が否めない。なぜ多子加算が他の施策と比較して効果が高いのか、そしてその効果はコストに見合うのかなどについても判断材料に乏しいということです。

 昨今の政府の政策立案に関し、統計やデータに基づいた要因分析や、様々な施策効果の比較衡量が十分に実施されていないと感じるのは、少子化対策に限ったことではないと筆者は言います。

 欧米では統計やデータに基づき、因果関係や政策効果などを検証しつつ政策を立案する「EBPM」の導入が進んでいる。これに対し、日本では往々にして、限られた事例や経験のみに基づく(エピソードベースの)政策が立案され、政策とその効果を結びつけるロジックも不明、政策のコストと効果の関係も明示されていないことが多いというのが筆者の認識です。

 国の施策は規模も期間も多様だが、少子化対策、教育や社会保障関連施策、あるいは生産性向上を目指す成長戦略などは、規模が大きくロジックも複雑で、効果が表れるまでに期間を要するもの。こうした政策は、その効果を逐次検証しながら、打ち手を改善し、思い切って軌道修正していくことも必要だと筆者は言います。

 (そうした中)政府は今年度から約5000の予算事業すべてについて、EBPMの手法を導入することとしている。事業内容をレビューすることで、限られた財政資源の有効活用と、時代の変化に機動的、柔軟に対応できる行政の実現を目指すということです。

 (「やってる感」を醸し出す)思いつきのような政策が次々と五月雨式に降りてきた官邸主導の安倍・菅政権を経て、霞が関にももう少し落ち着いた政策議論ができる環境も整いつつあるような気がします。

 社会保障費の増大などにより財源不足が叫ばれる中、ぜひともEBPMを各省の政策立案や検証のツールとして定着させ、予算要求の際にも活用してほしい。また、一連のプロセスを「見える化」することで、国民に対する説明責任も果たすべきだと話す筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿