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♯1284 物語と車たち

2019年01月27日 | 日記・エッセイ・コラム


 日本が世界に誇るスタジオジブリのアニメーションを見ていると、かつて実際に巷間を元気に走っていたユニークな名車の数々が登場することに驚かされます。

 例えば今から実に40年前、1979年の12月に公開された宮崎駿の映画初監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』では、主人公ルパン三世の愛車「フィアット500」が冒頭から大活躍しています。

 アルプスのつづら折りの道を悪漢から逃げる(ヒロインの)クラリスが運転しているのは「シトロエン2CV」で、ルパンを追う銭形警部率いる埼玉県警の機動隊が乗っているのはピニンファリーナデザインで知られる「410型ブルーバード」のパトカーです。

 猫バスのイメージが強い『となりのトトロ』ですが、草壁家が引っ越しに使ったのはダイハツのオート三輪「ミゼットdk」で、『魔女の宅急便』でも「フォルクスワーゲン(タイプ1)」いわゆるビートルが美しい街並みを元気よく走り回っています。

 山形を舞台とした『おもひでぽろぽろ』で、主人公のタエ子が惹かれる青年「トシオさん」の愛車として描かれているのは「スバルR2」。美しい農村風景の中を、白い2ストの煙を吐きながら一生懸命走っています。

 『借り暮らしのアリエッテイ』で、お屋敷に暮らす貞子さんが乗っているのは、(ならではの)落ち着いた雰囲気を醸す「メルセデスベンツ(W123)」で、『千と千尋の神隠し』で豚にされてしまうエリートサラリーマンのお父さんの愛車は「アウディA4(クワトロ)」です。

 魅力的なクルマたちの個性が場面ごとに印象的に描かれ、それぞれ意味の在る風景を作り出す。そのクルマの持つデザインや雰囲気が作品の重要な要素の一つとして、物語になくてはならない(ある種の)味わいや深みを与えていると言って良いでしょう。

 ジブリのアニメばかりでなく、写真や映画、小説や音楽に至るまで、クルマは作品のイメージを膨らます重要なアイテムとして活躍しています。

 緑の中を走り抜けるのは「真っ赤なポルシェ」であるからこそリアリティがあり、ジェームス・ボンドといえば「アストンマーティンDB5」でなければなりません。未来に行くのならガルウィングの「デロリアン」に乗りたいし、(これはクルマではありませんが)Born To Be Wildが一番似合うのはやはりハーレー・ダビッドソンだということです。

 そうしたクルマたちは既に(クリエイターたちの頭の中では)風景の一部となっており、それ抜きでは表現できないものだということでしょう。

 街並みと一体化した車たちの存在が風景を生き生きとさせ、一つ一つのカットに心憎いほどのディテールを与えてくれる。マスプロダクトの工業デザインが人々の生活に違和感なく溶け込み、乗る人の人柄やこだわり、そして時代の肌触りを伝えてくれているということです。

 気に入って使い込まれた自動車は個人の姿を映し出す鏡となり得るし、またそうであればこそ、才能ある多くのクリエイターたちは車に「意味」を見出し、それらが身に着けているイメージに重要な役割を与えていると言えるでしょう。

 翻って、テレビや洗濯機や自家用ジェット、あるいはパソコンやスマホやクレジットカードなどと少し違って、クルマのデザインというのは街並みや人の人生と結びつくことで、まさにそうした力を持ち得るものだということが判ります。

 そして、そのことは一方で、クルマのデザインにとって街並みや風景などの車を取り巻く環境との関係がいかに重要であるかを教えてくれます。

 レクサスやプリウスは、確かに工業デザインとしては印象的で斬新かもしれません。一目見ただけで、東洋の大メーカーが作る故障が少なくて燃費の良い安心できるクルマであることがわかるでしょう。

 似たような面構えとボディのバランスに落ち着きのない日産のクルマたちも、乗り込んでしまえばパッケージとしては決して悪くはありません。

 しかし、国産車の多くに見え隠れするこうしたガンダムの様な(ある意味プラモデル的な子供っぽい)デザインは、宇宙空間やショーケースに置いておくにはいいかもしれませんが、街中のあちこちで見かけるようになったらどうでしょう。

 人にも街にも歴史があり、当然車のデザインにもそれらを受け止めた(落ち着くべき)「必然」があるはずです。

 市井の人々が日常で使う車の全てがモビルスーツやカウンタックである必要はありません。なので、そこまで日本の自然や風景、街並みとの調和を無視した「目新しさ」にこだわる必要はないと考えるのですが、果たしていかがでしょうか。



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