MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2595 マクロンの賭け

2024年06月14日 | 国際・政治

 6月の上旬にEU加盟各国で行われた欧州議会選挙(任期5年)において、欧州連合(EU)の現状に懐疑的な極右を含む右派勢力が伸長。2割以上の議席(総定数720議席)を獲得し、主要国である西欧のフランスやイタリア、中欧のオーストリアなどでは国内第一党を占める勢いだと6月10日のAFPほか外電が伝えています。

 欧州議会は、直接選挙で選出される欧州連合の機関で、欧州連合理事会とともに両院制の立法府を形成している(単なる)諮問機関を超えた存在です。欧州連合の予算全般に関する権限を持ち、立法ついてはほぼすべての分野において理事会と平等な権限が与えられていることから、混迷する国際情勢下のEUの立ち位置に大きな影響を与えるものと懸念されています。

 こうした状況に対しフランスのマクロン大統領は6月9日、足下のフランス国民議会(下院)の解散を発表。欧州議会選で極右政党の得票率が4割近くに達したことを受け、国政において改めて国民の信を問う賭けに出たと6月11日の日本経済新聞が伝えています。

 「極右はフランスを貧しくし、劣化させる」…マクロン氏は欧州議会選の選挙速報直後の演説で、極右政党を激しく攻撃したと記事はしています。そのうえで、下院の解散と総選挙の実施を明言。「主権者である国民の意見を問う、これこそが共和国だ」とその意義を強調したとされています。

 実際、フランス国内で行われた欧州議会選では極右政党の国民連合(RN)の得票率は31.4%。2位の与党連合(14.6%)を大きく引き離し、新興政党の「再征服」などを合わせると、極右の得票率は4割近くに達すると記事はしています。

 マクロン氏の大胆ともとれる今回の動きを、一体どう見るべきか。氏の狙いは極右台頭の危機感をあおって国内の浮動票を集めることにある。「仏国民が自らと未来の世代にとって正しい判断ができると信じている」と訴えるマクロン氏は、(欧州議会選よりも)国民の関心を引きやすい下院選で勝負をかけたというのが記事の認識です。

 2022年6月の下院選では、与党連合は過半数割れしたものの、第1勢力の座はなんとか死守した由。フランスの政治制度では大統領と政府の権限が強いこともあって、憲法の規定を適用して予算案などを(何とか)成立させてきたと記事は説明しています。

 一方で、野党は首相の不信任決議案を度々提出するなど、議会が紛糾する場面も多かった。欧州議会選での与党連合の敗退が重なり、(マクロン大統領も)下院解散により政権の正統性を再び確保する必要があると判断した(のだろう)ということです。

 一方、マクロン氏の決断には懸念の声も上がっていると記事はしています。仏紙ルモンドによると、社会党などの左派連合の欧州議会選筆頭候補、グリュックスマン氏は「民主主義と政治制度を巡る非常に危険なゲームだ」と批判したとのこと。一方、右派RNを主導するルペン氏も、欧州連合(EU)離脱論を修正するなど穏健なイメージを強調。移民流入への反感に加え、マクロン氏が断行した年金改革や根強いインフレなど家計の不満を追い風に、勢力拡大を狙う構えだということです。

 記事によれば、フランスでは直接選挙で選ぶ大統領が強大な権力を持って国家の主要方針の策定や外交を担うとのこと。一方の首相は、行政の長として内政と議会対応を担当。大統領は首相を任命できるが、議会多数派の意向に反した人選は不信任決議の対象になる恐れもあると記事はしています。

 実際、フランスにおいて大統領による議会解散は珍しく、1997年に当時のシラク大統領が与党の安定多数確保を狙って解散した際は、シラク氏のもくろみが外れ社会党が勝利。同党のジョスパン氏が首相に就任してコアビタシオンとなったということです。

 さて、今回。勢いづくRNのルペン氏は9日、「我々は権力を担う準備はできている」と述べ、RNが首相を出す場合は(ルペン氏から)党首を引き継いだ28歳のバルデラ氏を据える意向とのこと。一方の与サイドは、極右首相誕生の可能性について「大統領はそれを想定していない。欧州議会選でも極右の得票率は4割だ」と指摘し、国民の過半数は依然極右を支持していないと主張しているということです。

 RNはフランス国内で、(政府、そしてEUが進める)移民規制強化や電気自動車(EV)推進などの環境政策の見直しを主張している。首相誕生まで至らなかったとしても、(もしも)与党がRNに議席を奪われれば、議会運営はさらに困難になるだろうというのが記事の指摘するところです。

 マクロン大統領の下、ウクライナへの訓練要員派遣論の口火を切るなど、ロシア対抗策に積極的に取り組んできたフランス政府。しかし、RNはウクライナ支援には消極的だと記事はしています。

 マクロン氏は賭けの結果次第では、内外の政策で極右に譲歩を迫られる可能性がある由。大統領選挙を控え欧州への関与に腰が引ける米国政府の現状を鑑みれば、EUを束ねるリーダー格のフランスの政局に世界の注目が集まるのは当然のことでしょう。

 さて、それにしてもこうしたニュースを耳にして、大切な機を逃さない政治のダイナミックな動きに、さすが市民革命を成し遂げた自由の国フランスだなと何やら羨ましさ(のようなもの)を感じたのは私だけではないでしょう。

 主権者である国民の意見を問う…政権存続をかけてこう決断した46歳のリーダー、マニュエル・マクロン氏のフランス共和制への思いに、私自身、ある種の敬意すら感じさせられたところです。



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