「首長」（shouzhang)来了！

社内の掲示板に、「明日の朝9時に『首長（shouzhang)』が来る」というお知らせがあったのは、昨日の午後。
（『首領』でも『酋長』でもアリマセン、念のため…）

うちの会社は杭州では一応名前の通った大手IT企業なので、普段からなにかと来客が多い。
自治体のエライさんとか、他社のエライさんとか、大学生の見学会とか、毎週一回くらいの割でお客様が会社参観に来る。
多いので、いちいち社員全員に通知したりしない。こんな風に通知があるのは、かなりのエライさんだけである。

「明日の朝9時に『首長（shouzhang)』が来られるので、エレベーターの混雑をさけるためいつもより早めに出勤すること。
　正門から入らず、裏の通用口を利用すること。来訪中は騒いだり、机の上を散らかしたりしないこと。」

と書いてある。

ところでこの「首長」って、一体誰？？
今まで、こういう通知はすべて来訪者の名前がちゃんと書いてあったのに。

同僚に聞くと、
「多分中央政府の、かなり上の地位の人。」
という答えが返ってきた。

ニュースを見ていると、北京の中央政府の高官はしょっちゅう地方を視察して回っているが（っつーか、それが仕事のようだ）、
高官の来る日程や視察する場所は公表されず、名前もすべて伏せてあるそうだ。

「安全のため」
と言うのだけど、日本では政治家が地方を訪問するときでも、名前ぐらい出してるだろう。

とにかく誰かわからないけど「首長」が来る、というのは会社にとって一大事らしく、接待する総務部の人は何やらピリピリしている。
もちろんうちの社長自らお出迎え＆ご案内をし、ナント「首長」の後ろには杭州市長はじめ杭州市のエライさんも全員つき従うとかいうウワサである。

「そう言えば、某国家主席が一昨日、隣の江蘇省をご視察中だって！」と同僚がネットで調べている。
「エッ！？もしかして『首長』って…」
「もしかして、もしかして、主席だったりするかも～！！」

とみんな勝手に想像して騒いでいる。

主席と言えば私は数年前、楊州で主席の一行に出くわしたことがある。
出くわした、と言っても実際には道を歩いているといきなり通行止めのテープが張られ、周囲ナント１km近くが立ち入り禁止になっていた。
すごい数の公安が盾やら警棒を持って「下がれ、下がれ！」と怒鳴っていて、何事かと思ってよく見ると、遠～くの方に黒い車の、すごい長い車列が見えた。

その日はナント高速道路まですべて通行止めになり、何も走っていない高速道路を黒い車の車列が通りすぎていったらしい。

公安も誰も「主席が来た」とか一言も言わないので、何が何だか最後まで？？？だった。
翌日の楊州日報に一面トップで「主席、当市をご訪問！」と書いてあるのをみて初めて、どうやらそれが主席ご一行だったとわかった次第。

ちなみに、もし列車で移動される場合も同じく、すべて専用列車なんだそうである。
この国では主席、いや中央政府の高官と一般人民の距離は、ほとんど封建時代と変わってないようだ。

さて、その首長様は結局、予定９時をかなりオーバーして、お越しになられたらしい。
首長様の御為に、タダでさえ少ないエレベーターが使えず、ヒ～ハ～言いながら（低血圧なので朝の階段はツライ）７階まで階段で上った私の努力は一体…

首長様が去った午後、会社のイントラネットの掲示板を見ると首長様の役職とお名前が公開されていた！が
残念ながら同僚たちが期待していた主席様でも総理様でもなく、社会科学院のエライさんだった。

しかし写真を見ても、名前を見ても、誰一人その首長様を知っている同僚はいなかった…。

なんなんだ、一体！？？？
万が一、主席様だったら日本人とバレて気を悪くされたらどうしよう、とか思って、
今ハヤリの「八栄八恥」くらいちょっとマジメに暗誦しといたほうがいいかな？、なんて思ってたのに（爆）

そもそも、名前を伏せる意味がどこにあるのかやっぱり私には理解できない。
去年の秋、某米国元大統領様がうちの会社にお越しにな（る予定だ）った時は、
一週間ほど前から思いっきり実名で、社内中にも杭州市中にも、いや全中国に公表されまくり、だったのだ。

みんなその時は、お決まりの真っ赤な歓迎タレ幕は勿論のこと、
「比尓、我愛ni」
なんて書いた、ハート型のボードまで作って、ほとんど歌手か俳優のノリだったのに。
（そして、ドタキャンされた）

名前を伏せる理由が「安全のため」だけだったら、この元大統領様はどうなるのだ？？
それとも「首長」＝名前を伏せなければ失礼にあたる、やんごとないお方
だとしたら、この国ではまさか

中央政府高官＞米国元大統領様
ってことになるんだろうか？？？

やっぱりこの国のシステムってよくわからない…、
としみじみ思った、「首長様」のご来訪だった。