警備のバイトでテレビ番組の収録スタジオに派遣された。
高価な絵画を警備させられたのだが、危うく、警備員のコスプレをしている僕の映像が、僕たち私たちの家のお茶の間に流れるところだった。
番組の内容は、芸能人たちがホンモノとニセモノを見分けてKAKUDUKEされる、みたいな内容のバラエティで、そこに2億円の絵画が登場するというので、収録前、収録中、収録後、絵画に万が一のことが起きぬよう、警備員六名が配置された。
で、準備中に絵の前で立っていたら、ADっぽい人が、「じゃあ警備員さん、本番中この絵(ホンモノ)の横に立っていて下さい」と言ってきた。
「え?僕がですか?」と確認したのだが、やはりそういうことらしい。
もうひとつのニセモノの絵の方に立つよう言われた警備員は、テレビに映るのが相当嬉しかったらしく、あきらかに取り乱していた。
そんな彼を見て、僕は妙にげんなりしてしまった。
聞けばその人は、劇団か何かに所属している役者らしく、よくよく思い起こしてみれば、しきりに「ホントはおれ映る側なんだよなあ」とつぶやいていた(が、なんとなくウザかったので僕は流していた。ゴメンナサイ)。
役者としてではなく、制服を着た警備員として念願のテレビデビューを果たしてしまった彼の運命は皮肉としか言いようがない。
だのに喜んでるってことは、きっとそういうこと(そこ止まり)なんだろうと思わざるをえない。
そもそもが、役者の仕事はテレビに映ることがその目的ではないはずだ。
僕は正直、テレビに映ることに関しては消極的だったというか、ぶっちゃけ、どっちでもよかった。
確かに、何人もの芸能人を間近で見られるし、テレビにも映れる。
こんな機会は滅多にあるものではないし、友達に話せば間違いなくネタになる。
しかし!
制服の着こなし方が悪かった場合、間違いなく会社の偉い人に叱られる。そのとき僕は、無精ヒゲが生えかけていたし、ネクタイも曲がっていた。
いや、そんなどうでもいいことよりはむしろ、「こんな不本意な制服、情けない格好、ご丁寧に名札まで付けて、わざわざテレビに間抜け面をさらしたくない!」という、卑しい心理が働いた。
まあ、それも含めてネタにはなるが、おいしいのかイタイだけなのか、実に微妙なラインである。
そんなとき、救世主が現れた。
もうひとり、ちょっと出たがっている警備員がいたのである。
ただ、先方さんと一応、「僕が出る」という口約束があったため、なんとなくお茶を濁しながら、僕は、流れを見て判断することにした。
そしてとうとう、絵の出番になり、どうしたものかとあたりを見渡すと、その、ちょっと出たがっていた警備員は、すでに、ものすごく強引に、絵のそばに張り付いるではないか!
パ、パワープレイ…。
引いた。僕は、ものすごく引いた。
アンタ、必死やないか、そこまでして出たかったんかい、と。
彼の情熱は本物だったのだ。もはや僕のごとき冷笑的な人間が出る幕ではない。
先方さんとの口約束、そんなもの、どうだっていいじゃない。要は警備員がひとり、絵にくっついていればいいだけの話じゃない。
こうして、僕がその格付け番組に警備員として映ってしまうという奇跡的ハプニングは、奇跡的に避けられた。
まあどうせ映ってるっつったって、ほんの何秒かでしょ、と思いきや、芸能人がいなくなった後のスタジオで、絵と警備員だけのカットとかも撮ってたから、きっと、そこそこ映ってると思われる。
ので、こうやって舞台裏のドラマを知ったからには、ぜひとも彼らの晴れ姿を見てみようではないか、という好奇心旺盛の方は、1月3日に放送されるらしいこの番組を、チェックしてみてはいかがだろうか。
最後に。
僕とて、人並みにテレビに映りたい気持ちを持っていないわけではない。
ただ少しだけ、恥ずかしかっただけなのかもしれない。
しかし、その恥ずかしいと思う気持ち、ウンコのような精神の持ち主である己を、みすみす公衆の面前に晒すことへの迷い、それを忘れたとき人は、リポーターの後ろでピースしてはしゃぐ猿の姿に成り果てるのではないだろうか、と少し思ったし、
やはりADというのは本当に大変そうだなあ、本当に大丈夫なのかなあボク、あれっ、そういえば今日、家のカギちゃんと閉めて来たっけ?!と、迷子のお巡りさんのように不安な気持ちになった一日でもありました。
※このドラマはフィクションということにしておいてもらった方が僕的には無難です。
高価な絵画を警備させられたのだが、危うく、警備員のコスプレをしている僕の映像が、僕たち私たちの家のお茶の間に流れるところだった。
番組の内容は、芸能人たちがホンモノとニセモノを見分けてKAKUDUKEされる、みたいな内容のバラエティで、そこに2億円の絵画が登場するというので、収録前、収録中、収録後、絵画に万が一のことが起きぬよう、警備員六名が配置された。
で、準備中に絵の前で立っていたら、ADっぽい人が、「じゃあ警備員さん、本番中この絵(ホンモノ)の横に立っていて下さい」と言ってきた。
「え?僕がですか?」と確認したのだが、やはりそういうことらしい。
もうひとつのニセモノの絵の方に立つよう言われた警備員は、テレビに映るのが相当嬉しかったらしく、あきらかに取り乱していた。
そんな彼を見て、僕は妙にげんなりしてしまった。
聞けばその人は、劇団か何かに所属している役者らしく、よくよく思い起こしてみれば、しきりに「ホントはおれ映る側なんだよなあ」とつぶやいていた(が、なんとなくウザかったので僕は流していた。ゴメンナサイ)。
役者としてではなく、制服を着た警備員として念願のテレビデビューを果たしてしまった彼の運命は皮肉としか言いようがない。
だのに喜んでるってことは、きっとそういうこと(そこ止まり)なんだろうと思わざるをえない。
そもそもが、役者の仕事はテレビに映ることがその目的ではないはずだ。
僕は正直、テレビに映ることに関しては消極的だったというか、ぶっちゃけ、どっちでもよかった。
確かに、何人もの芸能人を間近で見られるし、テレビにも映れる。
こんな機会は滅多にあるものではないし、友達に話せば間違いなくネタになる。
しかし!
制服の着こなし方が悪かった場合、間違いなく会社の偉い人に叱られる。そのとき僕は、無精ヒゲが生えかけていたし、ネクタイも曲がっていた。
いや、そんなどうでもいいことよりはむしろ、「こんな不本意な制服、情けない格好、ご丁寧に名札まで付けて、わざわざテレビに間抜け面をさらしたくない!」という、卑しい心理が働いた。
まあ、それも含めてネタにはなるが、おいしいのかイタイだけなのか、実に微妙なラインである。
そんなとき、救世主が現れた。
もうひとり、ちょっと出たがっている警備員がいたのである。
ただ、先方さんと一応、「僕が出る」という口約束があったため、なんとなくお茶を濁しながら、僕は、流れを見て判断することにした。
そしてとうとう、絵の出番になり、どうしたものかとあたりを見渡すと、その、ちょっと出たがっていた警備員は、すでに、ものすごく強引に、絵のそばに張り付いるではないか!
パ、パワープレイ…。
引いた。僕は、ものすごく引いた。
アンタ、必死やないか、そこまでして出たかったんかい、と。
彼の情熱は本物だったのだ。もはや僕のごとき冷笑的な人間が出る幕ではない。
先方さんとの口約束、そんなもの、どうだっていいじゃない。要は警備員がひとり、絵にくっついていればいいだけの話じゃない。
こうして、僕がその格付け番組に警備員として映ってしまうという奇跡的ハプニングは、奇跡的に避けられた。
まあどうせ映ってるっつったって、ほんの何秒かでしょ、と思いきや、芸能人がいなくなった後のスタジオで、絵と警備員だけのカットとかも撮ってたから、きっと、そこそこ映ってると思われる。
ので、こうやって舞台裏のドラマを知ったからには、ぜひとも彼らの晴れ姿を見てみようではないか、という好奇心旺盛の方は、1月3日に放送されるらしいこの番組を、チェックしてみてはいかがだろうか。
最後に。
僕とて、人並みにテレビに映りたい気持ちを持っていないわけではない。
ただ少しだけ、恥ずかしかっただけなのかもしれない。
しかし、その恥ずかしいと思う気持ち、ウンコのような精神の持ち主である己を、みすみす公衆の面前に晒すことへの迷い、それを忘れたとき人は、リポーターの後ろでピースしてはしゃぐ猿の姿に成り果てるのではないだろうか、と少し思ったし、
やはりADというのは本当に大変そうだなあ、本当に大丈夫なのかなあボク、あれっ、そういえば今日、家のカギちゃんと閉めて来たっけ?!と、迷子のお巡りさんのように不安な気持ちになった一日でもありました。
※このドラマはフィクションということにしておいてもらった方が僕的には無難です。