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走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

心肺蘇生を拒否する意思表明

2017年05月30日 | 仕事
新患さんは50代の女性。彼女はDNR Do Not Resuscitate 心肺蘇生を拒否する意思表明 をサインしてくれる医師を探していた。長年のアルコール依存。昔のように飲めなくなったが辞めたいとは思わない。いい人生だったし、悔いもないから好きなことをして(お酒を飲むこと) 死にたいだけ。お金があればスイスに行って自殺幇助で今すぐ命を断ちたいほど、と言う。

黄疸はないが腹部が張っていて腹水がたまっているかも。

私は医師ではありませんがDNRにサインができますよ、と伝えるととても喜ばれた。しかしその前にしなくてはならない事。鬱ではなく意思決定能力があるかどうか見極める事。問診や受け答え、態度を見ていても問題はなさそう。そして私とその方は書類にサインをする。

書類は1年間有効。毎年更新しなければならない。書類だけではなく一番身近な人にDNRをサインしたことや自分の意思をキチンと伝えておく事。救急隊は直筆のこの書類を見ない限り心肺蘇生を行う規則がある。通報で駆けつけた救急隊が一番初めにこの書類の有無を確認するために冷蔵庫のドアをチェクする。書類は必ず緑色の磁石付きのケースに入れて冷蔵庫のドアに貼り付けるようになっている。そのことについても話した。

で、次はスイスに行かなくてもカナダでも自殺幇助ができる事の説明。インターネットでサイトを紹介。該当者の条件、過程などを説明する。その過程でNPとしてアセスメント(法的に必要な書類) をしますよ、と自分の役割を話す。彼女はとても感謝していた。バンクーバーまで行かないとしてもらえないのかと勘違いしていたから安心しました、と。

法律が改正された昨年、カナダでMAiDで亡くなられた方は774人。その内BC州は154人でケベック州についで2番目の多さです。

で、普通の初診なら血液検査に行ってもらったり身体検査をしますが、してもいいですか?と聞くと断られました。一切の医療を拒否したいんです、と。

じゃあ今日はここまでと診察を終了した。何かあったらいつでも再診に来てくださいね、と伝える。

ホスピス緩和で長く働いていたせいか、何の抵抗もなくスムーズにできた。きっと人命救助を目的として医療に入った新米の医師やNPには、こうは行かなかっただろうと思う。長年ホスピス緩和医療は敗北の医療と呼ばれていた。命を救う殆どの医療とは逆方向だからだ。しかし、その中で学んだ生と死の尊厳。生きる権利と死ぬ権利。患者の意思決定を第一にする姿勢。真の患者中心のケア。多くの患者を見送って来たからこそ学んだことは大きく今日の診察に役立ったと思う。そんな貴重な経験を下さった患者さんに心から感謝した。



港を出港するとまず見えてくるのがバンクーバーコンベンションセンター(グリーンルーフ: 草が育っている) その横に連なる高層マンション。私がここに来た19年前には何もなかったところ。変わったね〜


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