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太田裕美について少し真面目に語ってみようか

35年の時が過ぎ、太田裕美についてあらためてもう一度考えてみようと思っています。

水曜日の約束

2009年10月05日 | アルバム「心が風邪をひいた日」
太田裕美の3枚目のシングル「夕焼け」(1975年8月1日発売)のB面の曲が「水曜日の約束」である。

雨が降っているか、降っていた水曜日の夕方、たくさんの人が行きかう映画街で、赤いレインコートを着て、手にロードショーの切符を手にしたひとりの女性が彼氏と待ち合わせをしている場面を描いている。

その水曜日が平日なのか休日なのか、彼女が学生なのか働いているのか、彼氏がどんな職業の人間なのかはまったくわからないが、水曜日に映画を見に行く約束をしていたようだ。

しかし、彼女は彼氏がきっと来ないだろうことを確信している。それでも彼女は「いま待つことだけが自分の愛なのだ」と自分に言い聞かせている。

彼氏がうつむきながら告白したことが二人の恋のきっかけのようだ。たしかにあの時代は、まだまだ女性は受け身で、男性からのアプローチがあってはじめて恋がスタートする。そんな時代だった。

二人の関係は、しばらくは順調だったはずなのが、やがてすれちがいをするようになり、ついに彼氏は約束をすっぽかしてしまうようにすらなった。

すっぽかすとはずいぶんなヤツだなぁ....と思うが、来ないとわかっていながらそれでも待ち続ける主人公にいじらしさや一途さと同時に女の情念のようなものも感じてしまう。

ひさしぶりにこの曲を聴いて、歌謡曲の単調なメロディにのせて女性のせつない思いを歌うこの路線は、後年の「九月の雨」につながっていることに気づいた。そんな曲が「夕焼け」という、まだまだ愛に対して肯定的な曲のB面として、この時期にすでに発表されていたことは、興味深い。

水曜日の約束
作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:荻田光雄

あなたを待っていたの 映画街でひとり
ロードショーの切符を手のひらに握りしめ
はなやぐ人の波に笑顔を探したの
来ないと知っていても私は待つの

ああ うつむいて愛つげられた日々が
涙の中に揺れるの

真っ赤なレイン・コートに悲しみをかくして
今待つことだけが私の愛なの


チャン チャララ チャララララララという単調なメロディが耳に残りやすく、まぎれもなく歌謡曲なのだが、描かれた情景が目に浮かぶ点が歌詞に工夫のない凡百の歌謡曲とは違っている。また情景が描きやすいぶん、歌詞を覚えやすく、なかなか忘れられない曲になっている。

「いつまでも妹のように振るまえたら こんな愛の終わりなかったでしょうか」というフレーズでこの曲を終わっているが、いつまでも妹のようになど振るまえないことを彼女がわかっているからこそせつなく、かりに妹のように振るまえたとしても、無残に終わる恋は終わるべきして終わるのだということは、年をとるとわかってくる。

「水曜日の約束」は、アルバム「心が風邪をひいた日」で聴くことができる。