荒井由美(松任谷由美)がかかわった太田裕美の作品は数少ない。「心が風邪をひいた日」では「袋小路」と「ひぐらし」の2曲で、どちらも作曲だけで、作詞は松本隆だった。彼女がその本領を発揮したのが、「12ページの詩集」に収録された「青い傘」だろう。とても地味なこの曲を30数年ぶりでじっくり聴いてみると、その歌詞にこめられた女性の心情がしみいってくる。
夏のある日の遊びのようなキスで彼女の恋は始まるが、彼には昔からつきあっている彼女がいることがわかる。かなえられない恋と知り、あきらめようとするがあきらめきれない。朝はやい電車に乗り、彼の住む町まで行き、雨の中住所をたよりに彼の家を探す。あっさり書いてしまえばこういう話だ。
この曲はファンの中でも人気があって、とくに2番の歌詞が話題になることが多い。連絡もしないまま、雨の降る中、彼の家を探してとぼとぼ歩く彼女の姿がこわい、いまふうに言えば「ストーカー」っぽくないか、ということだ。
この詩のむずかしいところは、彼女がかなり自意識が強い、聡明な女性であるということである。この場合、自意識とは自分を客観的にみる能力を意味している。普段の彼女は、けっして感情におぼれるようなタイプでなく、むしろスマートに人間関係を構成する都会的な女性である。そんな彼女がむくわれない恋に落ちたことから、この物語は始まっている。彼女は、泣きごとのような手紙を書いた自分も、雨の中彼の家を探して歩く自分もたまらなく嫌いなはずだ。それはだれに言われるまでも自分自身が一番よくわかっている。しかし、それでもなおそうしてしまうほど恋しい気持ちが彼女を苦しめる。心の底から湧いてくるような恋心が、普段は冷静な彼女自身を裏切ってゆく.....
「私のさしてる青い傘は 歩道に浮かんだしみのようね」という。傘がしみのように見えるというと、彼がよほどの高層マンションに住んでいることになりそうだが、「だれも気にしないような、それでいて、気づけばだれもが不快に感じる」そんな小さなしみのように自分を感じていることを表わしているのだろう。
「あなたが気づいてくれたならば 何も言わずに帰ります」このあたりが片思いの微妙さだ。まったく気づかれなければあまりに惨めだが、あって話をすれば、自分の中の感情がほとばしってしまいそう。そうなればよりいっそう自分が惨めになることがわかっている。朝はやい電車に乗り、住所をたよりに雨の中を歩いている彼女は自問自答していることだろう。いったい自分はなにをしているのだろうか、彼の家を訪ねていったいなにをしたいのだろう。彼にあってどうするつもりなのだろう。いったい自分はどうしてしまったのだろう。
作詞・作曲:荒井由美 編曲:萩田光雄
(中略)
何の約束もしないのに
はやい電車で会いに行った
雨のシトシト降る中を
住所たどって歩いた
私のさしてる青い傘は
歩道に浮かんだしみのようね
あなたが気づいてくれたならば
何も言わずに帰ります
最後に手紙を書いたけれど
泣き事ばかりで破りすてた
あなたに渡していたとしても
らしくないね(よ)と 笑うだけ
私のさしてる青い傘は
歩道に浮かんだしみのようね
あなたが気づいてくれたならば
何も言わずに帰ります
「12ページの詩集」は1976年12月5日発表で、その数日前の11月29日に荒井由美は結婚している。この曲の着想がいつごろなのかわからないが、個人的には幸福だったろうそんな時期にこの曲を提供している荒井由美の才能はやはり並はずれているなぁと思う。
夏のある日の遊びのようなキスで彼女の恋は始まるが、彼には昔からつきあっている彼女がいることがわかる。かなえられない恋と知り、あきらめようとするがあきらめきれない。朝はやい電車に乗り、彼の住む町まで行き、雨の中住所をたよりに彼の家を探す。あっさり書いてしまえばこういう話だ。
この曲はファンの中でも人気があって、とくに2番の歌詞が話題になることが多い。連絡もしないまま、雨の降る中、彼の家を探してとぼとぼ歩く彼女の姿がこわい、いまふうに言えば「ストーカー」っぽくないか、ということだ。
この詩のむずかしいところは、彼女がかなり自意識が強い、聡明な女性であるということである。この場合、自意識とは自分を客観的にみる能力を意味している。普段の彼女は、けっして感情におぼれるようなタイプでなく、むしろスマートに人間関係を構成する都会的な女性である。そんな彼女がむくわれない恋に落ちたことから、この物語は始まっている。彼女は、泣きごとのような手紙を書いた自分も、雨の中彼の家を探して歩く自分もたまらなく嫌いなはずだ。それはだれに言われるまでも自分自身が一番よくわかっている。しかし、それでもなおそうしてしまうほど恋しい気持ちが彼女を苦しめる。心の底から湧いてくるような恋心が、普段は冷静な彼女自身を裏切ってゆく.....
「私のさしてる青い傘は 歩道に浮かんだしみのようね」という。傘がしみのように見えるというと、彼がよほどの高層マンションに住んでいることになりそうだが、「だれも気にしないような、それでいて、気づけばだれもが不快に感じる」そんな小さなしみのように自分を感じていることを表わしているのだろう。
「あなたが気づいてくれたならば 何も言わずに帰ります」このあたりが片思いの微妙さだ。まったく気づかれなければあまりに惨めだが、あって話をすれば、自分の中の感情がほとばしってしまいそう。そうなればよりいっそう自分が惨めになることがわかっている。朝はやい電車に乗り、住所をたよりに雨の中を歩いている彼女は自問自答していることだろう。いったい自分はなにをしているのだろうか、彼の家を訪ねていったいなにをしたいのだろう。彼にあってどうするつもりなのだろう。いったい自分はどうしてしまったのだろう。
作詞・作曲:荒井由美 編曲:萩田光雄
(中略)
何の約束もしないのに
はやい電車で会いに行った
雨のシトシト降る中を
住所たどって歩いた
私のさしてる青い傘は
歩道に浮かんだしみのようね
あなたが気づいてくれたならば
何も言わずに帰ります
最後に手紙を書いたけれど
泣き事ばかりで破りすてた
あなたに渡していたとしても
らしくないね(よ)と 笑うだけ
私のさしてる青い傘は
歩道に浮かんだしみのようね
あなたが気づいてくれたならば
何も言わずに帰ります
「12ページの詩集」は1976年12月5日発表で、その数日前の11月29日に荒井由美は結婚している。この曲の着想がいつごろなのかわからないが、個人的には幸福だったろうそんな時期にこの曲を提供している荒井由美の才能はやはり並はずれているなぁと思う。