朝日新聞出版
2012年8月 第1刷
260頁
マルキ・ド・サドをもじって名づけられた書籍編集者の鳴木戸定(なるきどさだ)
25歳
唯一の趣味は暗闇でのひとり遊び
生れた時から少し不思議なところのある少女だった定
初めて「ふくわらい」で遊んでからその魅力に取り憑かれる
やがて、想像の中で目の前の人の顔の目・鼻・口を自由に動かして遊ぶことを覚える
母親が亡くなってからは紀行作家の父親に連れられて世界中を旅して回り、世間一般からみれば変わった生活を送ってきた彼女
彼女にとっては、それが普通であって世間に合わせようともせず、合わせる必要もない、自分の世界だった
今より、父親と旅をしていた頃の生活のほうが居心地が良かったと思いつつ
そんな彼女も大人になり編集者としてきちんと仕事を熟している
何故だか彼女が担当になるのは一風変わった扱いにくい作家ばかり
しかし、愚痴を言うのでも文句を言うのでもなく作家に正面から向かい合おうとする定には打算も媚もありません
正直に自分の思いを伝える彼女に作家も応えてくれ、仕事では着実に成功を収めていきますが、定にとってはそれもごく当たり前のこと
文字、言葉、文章への思い入れは普通の編集者より余程強いものを持っています
そんな彼女に恋をする一人の盲目男性
目が見えないからこそ、人間の本質を見抜く力がある彼から猛烈なアタックを受ける定ですが、今まで男性と付き合ったことも恋をしたこともない彼女は適当にあしらうのでした
作家から、盲目男性から、後輩編集者からアプローチを受け、少しずつ少しずつ変化していく定
ラストで定がしたこと
そこまでしなければいけないのかと思いましたが、そこまでしなければいけないほど定は長い長い間強固な膜に包まれていたのです
さあ、すっかり自分を解放した定の新しい人生がまた始まります
西さんの中でも異色の部類に入ると思いますが、なかなか感動的な作品でした
私、プロレスはほとんど見たことがないのです。
プロレスとビールが好きなら西さんの小説をもっともっと楽しめるのだろうなぁ、と思うのですがこればかりはどうしようもありませんネ。
とても楽しい作品でした!
“普段見ている様で見ていないところが見える”
そんな小説だったように思います。
ラストは自己解放だったのかな(笑)?