ポプラ社百年文庫68
2011年3月 第1刷発行
145頁
梶井基次郎「冬の蠅」
病気療養で滞在中の温泉宿で見た夏の元気を失った蠅から着想を得て書かれた作品
日陰では弱々しい蠅が日向では生き生きとする事実
日光浴中は上向きになるも日没後は微熱が出て辛くなる自らの病と重ね合わせています
普通、死を身近に感じていなければ冬の蠅を見ても素通りしてしまいますが、肺の病を患っていた著者の鋭い視線は蠅から生きるという真理を導きだします
中谷孝雄「春の絵巻」
自らの三高時代の体験を下敷きに保津川に身を投げた友人の死、恋、未だ成長過程の若者たちを描きます
よくある話ですが、時代や表現方法は違えど根底に流れるものは変わらないと実感します
北條民雄「いのちの初夜」
らい病を患い病院に入院した青年
虚無に浸る青年は義眼の男に出会い、その死生観を大きく揺さぶられます
3編の中で一番衝撃的でした
“いのち”という言葉が心に突き刺さります
3編とも『白』という単語からイメージされる純粋さ、潔癖さより、闇を照らす一筋の光が白く目に映る、そんな印象でした
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