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堀江敏幸「燃焼のための習作」

2012年09月27日 | は行の作家

 

講談社

2012年5月 第1刷発行

216頁

 

 

会話の連鎖が生む小説の愉悦

 

物語のメイン舞台は枕木事務所

何でも屋みたく依頼された仕事をこなす探偵・枕木と助手・郷子さんと激しい雷雨で帰るに帰れなくなった依頼人・熊埜御堂(くまのみどう)の3人が、熊埜御堂さんの依頼内容に始まり、枕木と郷子さんが以前した仕事の話、事務所近くに暮らすホームレスの話などを語り合う

簡単にいえば、それだけの話です

 

 

熊埜御堂氏の依頼は、「離婚した妻の元にいるはずの息子に会いたいのだが居場所がわからないので探して欲しい」ということ

枕木の、どこか茫洋とした雰囲気が相手の警戒心を解くのか、所謂聞き上手なのか、依頼人は知らず知らずのうちに本筋から外れた話まで始めます

オバサンの無駄話のように男二人の話がどんどん逸れていくのを上手く戻すのが郷子さん

郷子さんでもっているような枕木事務所です

そんなところからも、枕木と郷子さんはプライベートでもよきパートナーになれそうな雰囲気も

 

そんな感じであちこち飛びながら終盤近くで辿り着くのが本書のタイトルにもなっている「燃焼のための習作」に関する、以前枕木事務所で請け負った調査仕事の話

これは風見鶏のオブジェの名前で、それを制作した芸術家とある女性の成就しなかった愛のお話でした

このゆるく流れる物語の中で一番、緊張と人の情念を感じさせ、ラストの熊埜御堂さんの依頼の決着に向けて読者を運んでいってくれます

 

 

釣り糸に引っ張られるのと風船を手放した時に引っ張られた感触の違いについて

前者は明日への勇気に繋がったのに後者は喪失感に繋がった

同じように糸に引っ張られる感覚なのにこの違いは何なのだろう

 

夫婦の問題について

ものごとに順序があり、その順序の価値は人によって、育ちによって大きく異なることを理解すべきであった

 

物語そのものの展開は勿論ですが、内容を読者に伝えるための数々の言葉表現の巧みさに感服致しました

 

 

フランスの河岸に係留されたボートで暮らす若者を主人公にした「河岸忘日抄」に名前だけですが登場した日本に暮らす主人公の年上の友人の名が枕木でした

本作でも枕木が一時外国にいた友人と議論を興じたという一節がありますので、間違いなく二人の枕木は同一人物でしょう

友人は異国の河岸に暮らし、枕木は運河近くの湿った潮の香りが流れてくるビルで探偵事務所を開いている

このようなリンクを発見すると、無性に嬉しくなります

 

 

西さん、吉田さんに続き堀江さんも満足の一冊

本の選択眼が冴えてるかな、なんて^^

 

 


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2 コメント

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Unknown (toki)
2012-09-29 20:32:37
僕は、堀江さんの作品では「河岸忘日抄」が一番好きですが、この作品にリンクしている「燃焼のための習作」も似た雰囲気があり、とても楽しめました。
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tokiさん (こに)
2012-10-01 19:01:10
訪問&コメントありがとうございます。
「河岸忘日抄」の最後のほうに出てくるジャンベの音が印象に残っています。
小説なので音が聞こえるはずはないのですが、堀江さんの場合は聞こえてくる(ような気がする)のですよ。
これからも楽しみな作家さんですね。
返信する

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