世界の移民政策、移住労働と日本

日本型移民政策とは何か?世界の移民政策に関するニュース、エッセイ、本の紹介など

金融危機と海外出稼ぎ(その2)

2008年12月24日 | アジアの移民政策
先週、金融危機が海外出稼ぎに与える影響についての投稿をしたが、その後、アラブ首長国、マレーシアなどが外国人出稼ぎ労働者の帰還を促したり、新規受け入れを慎重に行い始めたというニュース報道があった。

↓の記事は(少なくとも統計上では)アジア最大の労働者送り出し国のフィリピンでも、金融危機のあおりを受け、失業・帰還する労働者が増えているというもの。解雇者が総数1400人という地元メディアの統計がでているが、おそらく予測の域に留まるのでは。というのも、元来クリスマス時期には多くの労働者が帰省するので帰国の理由が定かでないからだ。

大量の解雇労働者の帰還もありえるとして、アロヨ大統領は対応策を積極的に検討・採用しているが、そのほとんどが海外での新規雇用開拓を目指すものであり、帰還する労働者の国内雇用斡旋、職業訓練や融資などは限定的なものに留まっている。2007年に帰還労働者の支援センター(National Reintegration Center for Overseas Filipino Workers=NRCO)が設立されたにもかかわらず、当施設が全く活用されず、蚊帳の外に置かれたままである。NRCOはアロヨ大統領の指示の元に創設されたが、現在まで目立った成果を出していない。

新たな施策を発表するほうが政治的にはアピール性が高いのはわかるが、既存の同様のプログラムの運営がおろそかになったり新しい政策と重複したり、競合することが問題となる。次から次に新しいことを始めるのではなく、土台のあるところから、目的・ゴールをきちんと設定し、そしてその運営状況をもうすこし長いスパンで評価するような腰をすえた政策運営がこの国には一番必要なのではないか。そういった意味で、NRCOのプログラムの見直しと再建が望まれる。


解雇の嵐、帰国の波…世界不況が出稼ぎフィリピン人直撃

マニラ首都圏パサイ市の海外労働者福祉庁前で5日、解雇された海外労働者への政府支援が不十分だと抗議する労働団体のメンバーら=稲垣収一撮影 【マニラ=稲垣収一、シンガポール=実森出】労働力人口の2割が海外で就労する「出稼ぎ大国」のフィリピンが、金融危機に伴う世界的な景気後退の余波に揺れている。

 就労先の海外企業から解雇された労働者が相次いで帰国し始めたためで、海外からの送金に国家経済を依存する政府は、対策に頭を抱えている。

 ◆「仕送り依存経済」ピンチ◆

 「政府は、海外労働者を見捨てるのか」。解雇された海外労働者約100人が帰国した今月5日、マニラ首都圏パサイ市の海外労働者福祉庁前で、労働団体メンバーら約30人がプラカードを掲げて気勢を上げた。

 台湾の半導体メーカーで働いていたベルナデット・コルタスさん(24)は11月末、雇用契約期間を1年以上残して、100人余りのフィリピン人とともに突然、解雇を告げられ、帰国した。

 月給の1万7000台湾ドル(約4万7000円)の大半は家族に送金していたが、解雇の結果、弟と妹3人は学費が支払えなくなり、休学。借金をして就職仲介業者に支払った8万5000ペソ(約17万円)も返せる見込みはない。「国内の安月給では家族を養えない。また海外で働き先があるかどうか……」と不安を募らせる。

 世界の景気後退期、真っ先にリストラの矛先が向かうのが外国人労働者だ。1997~98年のアジア通貨危機当時は、解雇後に帰国費用もままならず、就労先の国で失業したフィリピン人が多数いたとされるが、今回は、当時を上回る規模になるとの見方が強い。

 地元メディアの集計では、金融危機に伴うリストラで、今月上旬までに台湾、豪州などから帰国したフィリピン人労働者は計約1400人。来年以降、米国、韓国の工場労働者やシンガポール、香港で働くメイドなど、海外で就労する約900万人のうち、約50万人が職を失う恐れがあるとの予測も出ている。

 フィリピンは国内総生産(GDP)の1割を海外労働者からの送金に依存しており、国内経済への影響も大きいとみられる。比中央銀行の統計では、海外からの送金額は、今年6月の14億5083万米ドルをピークに減少を続けており、欧州の金融大手UBSも、09年の送金額は08年比で8億米ドル減少するとの見通しをまとめた。

 これに対し、アロヨ大統領は解雇された海外労働者に最低5万ペソ(約10万円)の貸与や職業訓練を提供するなどの緊急支援を発表。「厳しい雇用情勢下でも、求人の多い国はいくらでもある」として、大統領自らカタールを訪問して海外労働者の受け入れ枠拡大に乗り出すなど、対策に躍起だ。

 しかし、海外労働者支援団体「ミグランテ」(本部・マニラ)のガリー・マルティネス議長は、「自国産業の育成を怠り、労働力の輸出に終始してきたツケだ。このままでは、フィリピン人はどこにも働く場所がなくなる」と訴える。

(2008年12月13日07時37分 読売新聞)

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5 コメント

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日比EPA発効により (JTikeda)
2008-12-26 21:27:59
フィリピン人看護師、介護士の受け入れが動き出しました。厚労省により来年1月に説明会が開かれるそうです。日本は条件が厳しすぎる(日本語能力、日本の国家試験など)ので、フィリピン側としては「他に行くところどこでもあるよ」的な反応だったらしいのですが、この世界的な経済悪化のこの状況で、応募者はどうなるか。注目です。
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Unknown (mina-grant)
2008-12-28 22:18:18
こんばんは。
書かれてあるとおり、台湾では解雇の嵐です。倒産でない場合、あからさまな解雇はないのですが、帰国を促されているようです。
運がいい人は台湾にいる間にカナダへのビザが取れて、そのままカナダに行けてました。
私の友達も、今日フィリピンに帰国したのですが、家族に会えるのは嬉しいけど、仕事もないし収入もないから前途は暗いと話していました。

また、台湾にいるフィリピン人労働者の間で、来年3月に全員解雇になるかもしれない、という噂までたっています。現実味があるのですけどね。

いつもは明るい彼女たちも、最近はとくに元気がありませんね。
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Unknown (ブログ管理者)
2009-01-03 21:24:16
mina-grantさん、コメントありがとうございます。カナダ、とくにアルバータやマニトバ州では不況にもかかわらず、外国人の雇用が旺盛です。現在フィリピン国内では、建設関連の技術者などの人材が不足しており、斡旋業者は海外で働くフィリピン人にも動員をかけているといいます。台湾より待遇もよく、移住のチャンスも多いカナダなら喜んでカナダ行きを承諾するとのことです。

また近況をお知らせください。
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Unknown (mina-grant)
2009-01-08 23:41:30
こんばんは。
確かに台湾ではカナダへ直接渡航するフィリピン人労働者は結構いますね。
ただ、そういう人たちは比較的長く台湾で働けてお金がある人で、それもできないフィリピン人もたくさんいます。
私の友達で、台湾に来て8ヶ月のフィリピン人がいますが、彼女も来週帰国しなければいけないことになりました。会社にいた100名以上のフィリピン人全員解雇だそうです。斡旋料は全額なんとか払えたそうですが、国に帰っても仕事がないので、いつも嘆いています。
でも、ちょっと不思議なのが、彼女が仲介業者に支払った金額は18,000ペソだそうです。航空券も込みで。新聞の記事の男性はものすごく高いのでちょっとびっくりしました。別の女性に聞いても、15,000ペソでした。業者によって、大きく異なりますね。

彼女たちと会社側で話し合いの場があったそうですが、仲介料の半額支払いと航空券と1か月分の給料を要求したそうですが、まったく聞き入れてくれなかったみたいです。
でも、台湾にいても、強制休暇をさせられて、1日710元(1ヶ月の給料は額面で約15,000元)引かれるそうです。それが1月ですでに2日(12月は5日)あったみたいです。ですから、本当に大変そうです。

私の友人で1人カナダに行ったフィリピン人がいるのですが、彼女はつてで行けたので、高い斡旋料も支払わずにすんだみたいです。

本当に、明暗がくっきりとわかれていますね。
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Unknown (mina-grant)
2009-02-11 19:29:03
管理人さんへ

先週フィリピンへ行ってきました。様々なOFWに関するNGO組織に行ったり、元OFWの友達に会ってきました。

NGO組織では最近解雇されたOFWに対して働きかけているとのことですが、具体的にどのようなことをやっているのかは不明でした。
元OFWに聞くと、このようなNGO組織はほとんど知られていなく、彼らは仕事もない状態で大変そうです。

そこで、ちょっと管理人さんに質問なのですが、この前のコメントに書かれていたカナダの外国人雇用についての元ねたを教えていただけませんか?元OFWにカナダについて教えたのですが、英語の記事などあればもっといいかと思いまして。もしそういうのがあれば、教えてください。

よろしくお願いします!
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