「地下鉄の車両ってどこから運び込んだんでしょうね? それを考えると夜も眠れない」
かつてはやった漫才ネタだが、ロボット工学者の森政弘さんは学生にこう聞いたそうだ。
「景色も見えないのに地下鉄になぜ窓があるのか?」
いろいろあった回答の一つが「電車には窓があるものだという固定観念があっただけ。窓がいらないと考えなかったのであろう」。森先生は「なかなかこういうふうには見られない」と、視点の柔軟さに感心している。(講談社+α文庫「[非まじめ]をきわめる」)
私もまねして、窓のある理由をいくつか考えてみた。
「旧式になってリタイアした後、郊外路線で第二の人生を送るのに窓が必要だから」「いざ事故が起きたとき、脱出口をたくさん確保するため」
我ながらアイデアが凡庸でがっかりするが、普段疑いもなく見過ごしている風景に素朴な「なぜ?」を発してみるのは頭の体操に打って付けだ。
日本郵政がオリックス不動産に「かんぽの宿」を売ろうとして、鳩山邦夫総務相から待ったがかかった。郵政民営化の旗を振ったと目される人物が会長を務めるグループに売り払うことに、「なぜ、オリックスなのか」「出来レースではないか」と不審を募らせたのだという。
一括譲渡は結局白紙になる見通しだ。手続きに不備がなければ中身もOKというお役人の固定観念を、世の中の素朴な「なぜ?」が押し切った格好だ。だが、それだけで幕引きにされては生煮え感が残る。この際、入札経過はしっかりと検証してほしい。でなければ気になって夜も眠れなくなる。(論説室)
毎日新聞 2009年2月7日 大阪朝刊
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