わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

より速く=落合博

2008-06-13 | Weblog

 子どものころ、運動会の駆けっこが待ち遠しかった。東京オリンピックの余韻が残っていただろう40年ほど前、子どもたちの世界では、速く走れることは、勉強ができるのと同じように(それ以上かもしれない)、あこがれ、称賛の対象だった。

 小学生の間で今、靴底が左と右で異なる運動靴が人気らしい。学校の校庭は土と砂が入り交じり、コーナーでバランスを崩しやすい。左回りのトラックに合わせ、滑り止めの突起物を右足は内側、左足は外側に配置してグリップ力を高める工夫がされている。

 「瞬足」とネーミングされたこの靴は5年前の発売以来、運動会でヒーローになれるシューズとして、口コミやテレビCMで広がり、少子化の時代にもかかわらず、累計で1000万足(今年3月)を突破した。近年の運動能力低下は、運動嫌いの子どもが増えたためと想像していたので、「速く走りたい」と願う子どもたちが今でも少なくないことは意外だった。

 水の世界では、着用した外国人選手が世界新記録を連発した英社製水着が話題になっている。靴にしろ、水着にしろ、「魔法の道具」は人の心を引きつける。自分が子どものころ速く走れるシューズがあったとしたら、どうしただろう。親にせがんで買ってもらったか、それとも愛着のあるシューズで勝負したか。

 はっきりしているのは、速くなれば、走ること、泳ぐこと、つまり体を動かすことが好きになるということ。そんな子どもが一人でも増えれば、運動能力の向上につながる。そんな期待と予測を抱くのは、無邪気過ぎるだろうか。(運動部)




毎日新聞 2008年6月7日 東京朝刊

コメントを投稿