わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

戦争から外交へ=福島良典

2009-01-06 | Weblog

 「コラテラルダメージ」とは何だろうか。「付随的損害」と訳され、戦争に巻き込まれた一般市民の被害を指す。家族を殺害された消防士が国家意思に背いてテロ集団に立ち向かうシュワルツェネッガー主演のハリウッド映画の題名になった。

 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を目の当たりにし、「付随的」の意味を考える。国連の推定では、死亡したパレスチナ人数百人のうち「少なくとも4分の1は民間人」だという。

 イスラム原理主義組織ハマスがロケット弾攻撃を仕掛け、報復するイスラエルは「ハマスの軍事拠点が標的だが、戦争なので残念ながら民間人の被害も出る」と説明する。ハマスは市民の死傷を「イスラエルの極悪非道ぶりの証し」と政治利用する。

 ガザ在住の国連機関人道問題担当職員、ハマダ・アルバヤリさん(34)が嘆く。「ハマスのガザ制圧(07年6月)に続くイスラエル軍の攻撃で、住民は弱り切っている」。イスラエル、パレスチナ双方の指導者に欠けている人道的視点だ。

 「戦争論」を著したプロイセンの軍事理論家、クラウゼビッツ(1780~1831年)は「戦争は他の手段による政治の継続」と定義した。ならば、住民の安全確保という目的を戦争以外の方法で達成できないものか。国際社会は早期停戦と外交解決を模索し、重い腰を上げた。

 世界が新年を祝う中、ガザ住民は爆撃下、イスラエル南部の人々はロケット弾の恐怖におびえ、2009年の幕開けを迎えた。戦争で最愛の人を失う悲嘆に「付随的」という形容詞はそぐわない。今こそ、戦争でなく、外交の力の見せどころだ。(ブリュッセル支局)





毎日新聞 2009年1月5日 東京朝刊

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