わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

スカーフの女性たち=福島良典

2008-12-03 | Weblog

 ベルギーの街並みを眺めながら移動できる路線バスをよく利用する。乗客の中にヘジャブ(スカーフ)姿のイスラム教徒の女性を見かけることが多い。欧州は多人種・民族社会。好奇の視線を向ける者はまずいない。

 欧州のイスラム教徒は推定900万~1500万人。宗教別ではキリスト教徒に次ぐ。少子高齢化の欧州諸国にとって、イスラム教徒を中心とする移民は貴重な労働力であり、社会の活力源だ。今や、移民なしの欧州は考えられない。

 欧州とイスラムは時に摩擦や対立の種になるが、異文化の出合いは豊かさも生み出す。民主主義や男女平等の考えに親しんだ在欧イスラム教徒は社会改革の担い手になっている。

 ベルギー南東部ベルビエにあるモスク(イスラム礼拝堂)で10月、欧州初とされる女性説教師が誕生した。ホウアリア・フェターさん(35)はアルジェリア系移民で、3児の母。「人類の半分は女性ですから」と女性信徒の礼拝指導にあたる。

 「英国で好きなのは暮らしと機会均等、多文化共存。嫌いなのはスカーフを女性抑圧と関連づけがちな点」。在英パキスタン人女性(23)はサラ・シルベストリ・ロンドン市立大講師の聞き取り調査にそう答えた。

 「彼女たちはイスラム教徒であることを誇りに思うと同時に欧州の民主主義や権利を謳歌(おうか)しています。スカーフ着用はおしゃれの場合もあるのです」。シルベストリ講師が指摘する。

 中東・アジアの出身国と、生活基盤の欧州。二つの祖国を持つ彼女たちは多文化社会の申し子だ。スカーフの女性たちが双方の社会をどう変えるのか。長い目で見守りたい。(ブリュッセル支局)




毎日新聞 2008年12月1日 東京朝刊

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