学校体育の現場に長年いた先生が嘆く。「昔は『体育(運動)をすると脳みそまで筋肉になる』なんて言われた」。よく聞かされた「遊んでいないで勉強しなさい」も同様の発想に基づいている。
米イリノイ大学の研究グループによると、小学校3年生と5年生を対象に調べたところ、運動が得意な子どもほど勉強の成績もいい、という統計学的傾向があるそうだ。
今月上旬の日本体育学会で、「エビデンス」という言葉を耳にした。科学的知見とでも訳せばいいだろうか。大学での学問研究の成果と、学校現場での実践が乖離(かいり)しているのではないか、との問題提起がなされていた。
体育とは何を教え、習得させる教科なのか? 30年以上前の自分自身の学校時代を振り返ってみれば、息抜きとして、何となく体を動かしていたという記憶しかない。
「オフサイドはなぜ反則か」などの著作がある中村敏雄氏(元広島大学教授)が自身の経験を踏まえて書いている。「教えるべき内容がなく体系化もされていなければ教師はスポーツのコーチャーになるしかなく」「『レベルの低い部活指導』のような活動を体育というべきではなく」。高校の学習テーマとして中村氏は、バレーのサーブが落ちる理由やアマチュアリズムの歴史などを挙げている。体育の理科であり、社会科だ。
学校体育への誤解は根強い。政治家との会合に出席したある研究者が漏らした。「筋肉マンを養成すればいい、とでも考えている政治家がいる」。自民党スポーツ立国調査会の会長でもある麻生太郎首相は、違いますよね?(運動部)
毎日新聞 2008年9月27日 東京朝刊
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