ケアする人のケアに取り組むNPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」理事長の牧野史子さん(54)には夢がある。「介護者ハウス」のような場所を作ることだ。
介護離職を余儀なくされた娘が親を連れてハウスに立ち寄る。親はミニデイサービスを受け、子は再就職に役立つ技術を身につける。家族一緒の旅を企画したり、疲れがちな人に寄り添うボランティアの養成もする場所という。
牧野さんの活動の原点には阪神大震災での経験がある。仮設住宅への訪問活動から、家族を介護する人たちが悩みを抱え込んでいると知った。大災害があらわにしたのは日常の深刻な問題だった。
母親を在宅介護していた元タレントの清水由貴子さんが自殺し、以前牧野さんから「最近、母親を世話する娘たちが危うい」と聞いたことを思い出した。母娘の間に日ごろ生まれがちな愛憎を抱えたまま介護に突入した時、娘に大きな精神的負担が生じているのではないか、と。
清水さんの死で、介護者の置かれた状況に注目が集まった。同じような人は今も大勢いる。「なのに確かな解決策は示されていない。清水さんにも誰か1人、同じ経験をした話し相手がいれば、悲劇は防げたはず」。支援を続けてきた経験から、牧野さんはそう確信する。
自分から救いを求められない人は多い。でも例えば母と2人で街に出て、ボランティアが母をみてくれる間に買い物を楽しめる。そんな場が増え、サポートを受けることが自然になれば、介護者を取り巻く空気も変わるだろう。
介護者ハウスが実現すれば、高齢社会にふさわしい文化をはぐくむ一歩になる。(生活報道センター)
毎日新聞 2009年5月13日 東京朝刊