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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ベルセルク 黄金時代編 覇王の卵

2012-02-27 22:02:42 | 映画(は)
評価点:48点/2012年/日本/80分

原作:三浦健太郎

監督:窪岡俊之

アニメ映画とはなにかということを、問い直すべき時期に来ている。

中世の戦乱の時代。
毎日のように戦争があり、傭兵たちが金で雇われ戦果をあげていた。
大剣を携えたガッツ(声:岩永洋昭)は、優秀な傭兵として活躍していた。
ある城攻めの時、ガッツは大斧のバズーソ(声:ケンドーコバヤシ)を倒す。
その姿を見ていた鷹の団団長グリフィス(声:櫻井孝宏)はガッツを鷹の団に誘うことを決める。
決闘で負けたガッツは仕方なく鷹の団に入ることになったが、彼が見た兵士たちはみな傭兵のような殺伐とした雰囲気はなく、次第に馴染んでいくことになる。

「ヤングアニマル」で連載中のマンガ、「ベルセルク」のアニメ映画化第一弾である。
以前にもテレビシリーズとしてアニメ化されているが、今回は映画化。
映像にモーションキャプチャーを使用したり、CGで立体的な作画を実現したり、映像的に大幅にパワーアップしている。

原作はまだまだ連載中なので、このままのペースでいくと数年で映画化が追いついてしまう。
それまで制作しつづけられるかどうかは別にして、ファンなら一度は見てみたい、そんな待望の映画化である。

僕としてはハリウッドに売り込んで、本格的な実写映画化を実現して欲しいところだ。
キャスカはハル・ベリー(もうちょっと年齢的に無理?)、ガッツ、グリフィスは…などと考えているだけでも楽しい。

今さらのアニメ化。
さて出来具合はいかがだろう。
映像のすごさは間違いないので、見るなら映画館だ。
だが、レイトショウや映画サービスデーなどで十分かもしれない。
パンフレットが2種類あって、特別版はなんと2500円。
どちらを買うにしても、映画を鑑賞したあとに、買うことをおすすめする。
面白くないと感じたら、2500円のパンフレットは高すぎる。

▼以下はネタバレあり▼

3D映画に、2D映画、フルCGアニメに、画面の8割がCGのような実写映画もある。
その中で、セル画で綴るアニメ映画はどのような立ち位置を築くべきだろうか。
この問いに、各アニメーターたちは真剣に答えを出さなければならない。
ジブリのように手書きをウリにするのも、一つだろう。
APPLESEED」のような3D化したアニメも一つの答えかもしれない。
これだけ表現が多様化した今、その問いに真っ正面から答えなければ、アニメーターが1800円も観客に払わせて、2時間も時間を拘束して、さらに映画館まで足を運ばせることはますます難しくなるだろう。

この映画が突きつけられているのは、そういう問題だ。
その意味では、この映画は何の工夫も感じられない駄作にすぎない。

原作が終わったわけでもなく、終わるような収束点も見えない中で、この時期に映画化する意味は何か。
誰もが抱く原作ファンの、この問いに、どのように答えるのか。
この映画の最大の関心事といってもいいだろう。
映像技術は日々高まっている。
今日映画化するよりも、明日映画化するほうが、はるかに技術が向上するのは誰もが知っていることである。
にもかかわらず、この2012年公開を目指して、「ベルセルク」は映画化された。
アニメ映画が今後どのようにあってほしいのかを問うというのはそういうところから出発している。

この映画で新しいところは、映像以外には全くない。
いや、その映像だって、ハリウッドでは常識的になりつつある手法に過ぎない。
モーション・キャプチャーによる映像は、「ファイナル・ファンタジー」で日本の技術屋たちが既に挑戦して、何年も経っている。
そういう映像技術にすぎない。

まず、長い原作を80分という時間に収めてしまったことが解せない。
上映時間は短ければ短いほど興業収集に直結する。
それだけサイクルが早くなり、一日に上映できる回数が増えるからだ。
だから、上映時間の長い「アバター」がそれでも興行収入で優秀だったのは特筆すべきことなのだ。
しかし、短ければよいというものでは決してない。
この映画は演出上、そこは間をおくべきだろうというところでさえも、すっ飛ばしてダイジェストで見せてしまう。
だから、全然迫力が感じられない。

不死のゾットの登場シークエンスが良い例だ。
原作を知り尽くしている人間にとっても、あそこは恐怖を感じるように作るべきだった。
なぜなら、そこがこの映画の最大の見せ場だったのだから。
にもかかわらず、すっと過ぎていく。
だから、この世にあってはいけないもの、という畏怖や絶対的な死を感じることがない。
それはモーションキャプチャーしなくても十分見せられるものだ。
ダニー・ボイルの「127時間」を見直したが、腕に挟まれた男のほうがよほど「怖い」し「動いている」。

カット割りも、原作をそのまま忠実に再現しているにすぎない。
だから、「やった、アニメ化したぞ!」と喜ぶことはできても、それが二作目であることを考えるとそのような感動を本当に観客が味わいたかったのか、疑問だ。
それならば、映像として、映画としてどのようなカット割りで見せるべきなのか、もっと熟考するべきだった。
この制作陣には、アニメに対する野心がないのだ。

また、上映時間が短すぎて、新しいファンを獲得するほどの丁寧さもない。
この映画を初めて見る観客や、欧米人は、この作品自体の魅力を十分に味わうことさえできないだろう。
これまでの原作ファンへも、新しい観客へも、どこへベクトルが向いているのかわからない。
なぜ、もっとグリフィスとガッツの関係性をえぐらなかったのか。
なぜ、その他のキャラクターを描こうとしなかったのか。
個を追求しなければ、今時代で映画として盛り上がるわけがない。

原作から離れていく必要はないだろう。
だからといって、映画化する意味を追求しなくて良いということにはならないはずだ。

面白い作品は、どれだけリメイクしても面白い。
それは「ヱヴァ」で証明されている。
単なるダイジェスト版を作るだけなら、ファンを餌食にするだけだ。
パンフレットの売り方にしても、僕はこの映画が商業的な意図以外に、監督を初めとする人々の真摯さは感じられなかった。


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2 コメント

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はじめまして (西京極 紫)
2012-02-28 21:27:55
TBさせていただきました。

なかなか厳しい評価をされていますね。
僕は原作に思い入れがないからでしょうか、
結構楽しめましたし、CG部分についてはクオリティの高さは感じたのですが…
そのあたりは評価はひとそれぞれなのでしょう。

いずれにしても3部作のうちの1/3で
評価を下すのは早いのではないでしょうか?
僕は第2部に期待します。

失礼致しました。
返信する
トラックバックありがとうございます。 (menfith)
2012-02-28 22:23:22
管理人のmenfithです。
怒濤の更新ラッシュが続いていますが、決して暇なわけではありません。
決して。

>西京極 紫さん
TB&コメントありがとうございます。
こちらからもTBさせていただきました。

僕は原作のファンです。
今回の映画化で本格的に世界に売り出すものだと考えていました。
ここで勝負しないと、僕の夢である実写映画化が叶わないでしょうから。
そのことを考えると、どう考えてもぬるいですし、この三部作以上続けるのだ、観客を感動させるのだという志を残念ながら感じませんでした。

おそらく、乗りかかった船、このシリーズは個人的に追うことになると思いますが、次回作はもっとクオリティの高いシナリオ、見せ方を望みます。

やはりどうしてもアニメ映画は曲がり角だと思うのです。
きちんとしたものを日本で作り続けなければどんどん海外に負けていくでしょう。
かつての邦画からハリウッドが学んだように、すべて吸収されて過去の栄光になることを本当に危惧しています。

期待が高すぎて、満足できないのはそのためです。
人それぞれだと思います。そのあたりも含めて。

僕は変わったヤツですが、めげずにsecret bootsを、今後もよろしくお願いします。
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