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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

人生はビギナーズ

2012-02-28 17:53:01 | 映画(さ)
評価点:78点/2011年/アメリカ/105分

監督・原作:マイク・ミルズ

久しぶりにみた、とても映画らしい映画。

75歳の父は、母が亡くなったとき「自分はゲイだ」と突然告白した。
困惑する息子のオリヴァー(ユアン・マクレガー)だったが、父親(クリストファー・プラマー)は恋人を見つけ、人生を謳歌する。
父親は癌を患い、他界してしまう。
父親の死後、人の心に入り込めないオリヴァーはパーティーで見つけたアナ(メラニー・ロラン)と恋人関係になるが……。

たまたま時間が空いたので、ちょっと映画でも、と考えていたところ、単館上映のこの映画を見つけた。
そこそこヤフーのレヴューも高かったので、ほとんど話を知らずに映画館でチケットを買った。
ユアン・マクレガーが主演だということもある。
しかし、監督のマイク・ミルズはまったく知らない人だった。
あまり有名な作品ではないけれども、今回、オスカーで助演男優賞を受賞したので、少しは見に行く人が増えるかも知れない。

注意するべき点は、この映画は映画をあまり見ない人には面白さを感じることが出来ないだろうという点だ。
年に数本しか見ない人にはお勧めできない。
けれども、とても映画らしい映画だ。
エンターテイメントを前面に押し出す映画とは一線を画する。

見終わった後、あたたかい気持ちになれるだろう。
評価されるべき、見るべき映画の一つだ。

▼以下はネタバレあり▼

上でけっこう褒めたわけだが、実はちょっとうとうとしていた。
アナとの出会いあたりまでがうる覚えだということを、まずご理解いただきたい。
だったら、書かなきゃいいじゃん、と言われてもその通りだ。

でも、許して。
ほんまごめん。リアル・ソーリー。

……物語はとても単純だ。
時間構成が父親の死ぬまでと、父親の死後アナとの暮らしに踏み出すまでという時間が同時並行的に流れていく。
なぜこのような構成にしてあるのだろうか。
それも単純な答えだ。
父親が死ぬまでの状況と、オリヴァーが新しい一歩を踏み出すまでの状況がぴたりと一致しているからだ。
この映画はこの構成でなければならなかったのだ。
映画をあまり見ない人は、この構成の意図を掴みにくかったかもしれない。
けれども、この映画の構成はこれ以外ありえない。

もう少し具体的に言えば、父親のゲイ宣言(=男の恋人を公言するぞ宣言)から、父親の生き方を理解するまでの物語だ。
冒頭の早い段階で父親が書いた恋人募集の手紙を見つける。
そして、物語の終幕間際で、アナと二人でその手紙を再度読む。
映画の構成として見事という他ない。

父親と母親の関係について、先に整理しておこう。
父親は自分が10代のころに、ゲイであることを自覚する。
それでも、母親と恋に落ちた父親は、母親からプロポーズされる。
「わたしがあなたを治してあげる」

当時、同性愛者は病気として扱われ、父親もそのはずだと理解していた。
そしてそれは不治の病ではなかった(とされていた)。
けれども、男性が好きであることを止めることができない父親は母親を愛することができない。
だからこそ、二人に愛がなかったのか、という疑問をオリヴァーは抑えることができないのだ。
幼少期、彼が思い出すことは母親と二人で遊んだことくらいだ。

父親が母親の死後にようやくカミングアウトできたのは、そのためだ。
父親は、自分がゲイであることを自他共に認めることが重要だと知る。
だから、これまで隠していた感情を表に出すことにするのだ。
だが、それは母親を愛していないということではないのだ。

そんないびつな二人に育てられたオリヴァーは、人との距離を置くことで生きることを覚えた。
不思議なくらい、それは父親と重なっている。
自分の感情を誰かにぶつけること、自分の心を閉ざしておくこと、それが父親にとってもオリヴァー自身にとっても重要なことだったのだ。

だから、オリヴァーにとって、父親がゲイであることを宣言し、恋人作りに躍起になっていることが理解できない。
なぜ、今なのか。
その二人の間に生まれた俺はどうなるのか。
俺は人とどのように向き合えばいいのか。

父親の死ぬまでの過程を思い出しながら、アナとどうあるべきなのか、向き合っていく。
晩年、父親が勇気を出して自分らしく生きることを選んだ挑戦を、自分も同じように挑戦するべきなのだという答えを見出す。
どうなるかはわからない。
けれども、挑戦したいのだ。
その結論は、父親が残りわずかな命をかけて得た答えと同じものだった。

愛する人を、素直に愛していると伝えること。
愛している人と、本当に一生を添い遂げること。
そんな難しさを描いている。
「どうなるかはわからないけれど、また始めればいいさ」という楽観的だが軽くない、そんなテーゼがこの映画を貫いている。

いいラブストーリーだと思う。
寝たけど。

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